妾たち ①
近代に入るまでの中国は一夫一妻多妾制の社会だったので、庶民の家庭でも妾が一人ぐらいいるのは普通のことだし、法律で咎められてもいませんでした。それに、人数の制限もなかったので、王侯貴族となると十人どころか百人の女を囲っていてもなんらおかしくはない。ただ、前の方で述べたように、妾を別宅で囲うことは禁止されていましたが。ただし、禁令を破って妾を別宅で囲う者は大勢いたそうですが。
さて、現代に生きる私たちは、「正妻以外の、その家の主人と肉体関係を持つ見返りとして養われている女=妾」だと見なしてしまいますが、実はそうではなかったのです。というのも、広い意味での妾にも様々なランクがあって、そのトップの存在は
媵は唐代では「身分や地位がかなり高い側室」を指しましたが、某フリー百科事典によれば、「中国は周代の、天子や貴族の側室の一種。周代では王侯が妻を娶る際は、花嫁の姉妹やいとこが媵として付いてきて、正妻が子供を産めなかった場合は代わりに子を産んだ」というような存在だったようです。ただこれは周代の話で、本では「媵は元々は花嫁に付きそう侍女のことを指した」とあったので、時代の流れと共に意味が移り変わっていき、やがて妾と同じ用法で使われるようになったのでしょう。
ただ、元来の「正妻の代わりに跡継ぎとなる子を産む女」という意味も多少は残っているのか、媵は妾とは法律的にも制度的にも区別されていましたし、媵には品級と地位が与えられていたそうですし、刑法上の量刑にも格差があったそうです。例えば、唐の法律は妾の数は制限していませんが、持てる媵の数を
親王……………………十人まで
二品官…………………八人まで
三品官、及び国公……八人まで
四品官…………………六人まで
五品官…………………三人まで
と制限しています。そういえば、隋代には科挙が導入されたことから官僚を九品に分ける制度は廃止されたそうなので、この本のように唐代の官僚を一品官等と表すのはおかしいことかもしれません。が、きっと「たとえば正一品と従一品の官僚を指して一品官と呼んでいるのだろう」と解釈しました。
ところで、唐代では
文散官 武散官 勲 爵
品階
正一品 なし なし なし 王
従一品 開府儀同三司 驃騎大将軍 なし 嗣王・郡王・国公
正二品 特進 輔国大将軍 上柱国 開国群公
(以下と職事官は面倒なので省略)
と臣下の地位を定めていたそうなのですが、この区分に従えば一品官である国公が、三品官の官僚と同じ数の媵しか持てなかったのって、なんでなんでしょうね。ただ、唐の官僚の肩書きは
・散官………全ての官僚が持っている、実質の職権は伴わない、公的な場で使われる、品階の上下を示すだけの官名。
・職事官……実際の職務を表している位。ただし職事官に就任するには、前提として一定の散官を持っていなければならなかった。
・勲官………元々は軍功著しい者にしか授与されていなかったが、外征が増えるにつれて乱発されるようになり、価値も低下していった。
・爵号………皇族か顕著な功績があった高官に対して与えられる名誉称号みたいなもの。
この四つから成り立っていて、実際にその人が担っていた職務を表す官位と、散官の位にズレがある場合もあったそうだから、国公という爵号を与えられた人物の実際の職務を表す官位の多くが、三品官ぐらいだったのかもしれませんね。なお、爵号も実質を伴わない方が普通だったみたいです。この点、公主たちに与えられた封号と同じようなものだったのでしょう。そういえば、本では特に触れられていなかったけれど、皇族である(詳しくは下の方で述べます)嗣王や群王は八人までなら媵を持てたんでしょうか。
ちなみに、「群王」とは、親王を除く皇帝と同じ一族で王に封じられた者と、他国の王(国王)を区別するために使われていた名称だそうです(嗣王は、王と群王の間に位置する位なそうな)。ただ、中国からしたらあまり重要ではない国の支配者にはあえて国王より低い郡王の位を授けることがあったそうな。ただ、唐代は郡県制ではなく州県制だったのに、どうして
なお、国公はググる先生に訊いてみても明確な答えが返ってこなかったので分からないのですが、皇帝と同じ一族ではない者に与えるものとして最も上のランクの爵位のことです。多分。ただし、唐も末期になると有力な節度使に平王という称号を与えるようになったのですが。
話が大分妾から堅苦しい方向に逸れてましたね……。とにかく、媵を何人持てるかなんて区分は王侯貴族の世界に限られる話だったので、一般では媵と妾は同じ意味で使われていたし、そもそも普通の家庭には媵なんて身分を指す呼称はなかったそうな。一般家庭では、正妻以外は全て妾。なお唐代では妾は「下妻」「小妻」「側室」などと呼ばれていたそうです
今回のスペシャルサンクス
・礪波護著 唐の行政機構と官僚
この本に付いている、唐代の百官対応表は素晴らしいです。
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