妓女たち 宮妓編②

 今回は前回でちらっと述べた外教坊について詳しく述べていきますね。

 外教坊とは、首都・長安と東都・洛陽の二つの街の急減に近い街区に、左右二つずる設けられた芸妓養成所のことです。外教坊に属する妓女は宦官によって管理され、必要な時に呼び出されて、宮中での宴会なり式典なりに花を添えていたのです。


 一たび後宮に入れば以降の人生のほとんどを後宮に縛り付けられる宮女や、宮廷内にある内教坊の宮妓とは異なり、外教坊の妓女は比較的自由に生きていました。そして、宮廷もまた彼女らを束縛しようとはしなかったそうです。男性と一緒に外出して同じ宿に泊まったり、また時の権力者の邸宅に遊びに行ったりしていたとか。

 また、外教坊の宮妓の芸は、名目上は宮廷が独占していたようですが、ある宮妓は「踏謡娘とうようじょう」という簡単な話付の歌が得意だったので、あちこちにお呼ばれしていたとか。それどころか外教坊の芸妓の少なからざる者は結婚して家族を持ち、一家全員で外教坊に住んでいたそうです。驚きですね! ある妓女は、自分は歌舞をやり、兄はとんぼきりをやり、夫は竿木を使って芸をしていたように、外教坊の芸妓は、家族も宮廷に仕える芸人であることが大変多かったとか。でもこれは、当然の成り行きかなとも思います。

 外教坊の芸妓も宮廷内の宮妓と同じく、多くは民間から選抜された女性だったそうですが、そんな彼女が結婚相手として最も出会う確率が高いのは、同業の――つまり同じ芸人の男性ですよね。そんな芸人夫婦の子供ならば、民間で生まれた子よりも早い段階で芸事に触れ、民間で育った子よりも早い段階で芸事をマスターする。そしたら彼ら彼女らの多くは両親と同じ宮廷専属の芸人になり、また両親と同じような結婚をするでしょう。だって職場・・のみならず私生活においても、最も出会う確率が高い異性は、同じ外教坊で暮らす芸人なのだから。それに、話題も合いそうですしね。

 ……などと、女ならば外教坊の芸妓、男ならば宮廷専属の芸人という職が、現代で言う歌舞伎の家元みたいに世襲されることも多かったのでは、と本には一文も載っていないながらついつい考えてしまいました。


 外教坊の妓女たちには一風変わった習わしがあったそうです。なんでも、外教坊の妓女たちが意気投合すると8~15人が集まって、神仏の前で香火を焚いて義理の姉妹となる誓いを立てた、「香火兄弟」という集団を形成したそうです。その中の一人が結婚すると、義理の姉妹たちは、夫の方を女仲間に見たて「嫂嫂ねえさん」とか、「新婦はなよめさん」とか呼び、なおかつその夫と自由に性的関係を持つことができたそうです。彼女らはこれを突厥の習俗に倣ったものと言っていたそうですが、いやはや面白い慣習ですね! ただ、どうして自分たちが「兄弟」になって、夫の方を「花嫁」と呼んだのかは分かりませんけれど。また、外教坊の妓女は香火兄弟の配偶者ではない男性とも、結構自由奔放に関係(意味深)していたそうです。その証拠に、


 ある妓女が芸人仲間と密通しているうちに、夫が邪魔になったので土袋で夫を圧死させようとしたが失敗してしまった。だから、同じ外教坊の妓女はいつも、「今度土袋を縫う時は、ほころびないようちゃんと縫いなさいよ」と冗談をいって笑いあっていた。


 という話が伝わっているそうです。この話、本人たちはころころと笑いながら話してたでしょうけれど、もしも側で男が聴いていたら、きっと背筋が凍ったでしょうね……。それにしても怖い。ヘタな怪談よりよっぽど怖い。あと、未遂に終わったけれど、殺し方がダイナミックすぎる。土袋で圧死て。毒でも盛ればイチコロなのに。

 さて気を取り直して、他にも外教坊の妓女の奔放振りを示す逸話としては、


 ある外教坊の妓女が出かける際には、いつもその夫もついて行っていた。招いた側はその妓女を密かに狙っていたらしく、邪魔な夫に酒を飲ませて酔いつぶそうとした。そんな時、夫は「俺は銭をはずんで貰えさえすれば、蒸しまんじゅうを食べても酔いますよ」と言った。

 

 というエピソードが残っています。凄いですねこのコルネット( 浮気されていることを知っていても、泰然自若としている男のこと)。なんかもうあっぱれだ!

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