妓女たち 宮妓編①

 タイトルのごとく今回からは唐代の妓女について纏めていきますが、妓女は日本の芸者と同じような存在でした。つまり妓女とは綱渡りなどで人を楽しませる芸人(女優、女伶と呼ばれていた)と、身体を売る娼妓を指していたのです。また、この二つには明確な区別などなく、娼妓だって何か特技がなければよい客は捕まえられないし、芸人だって時に身体を売っていました。

 妓女たちにはまた、下記のように大別できました。

 ①家妓……私人が自宅で蓄える妓女。彼女らは主人の私有財産、奴婢と同列の存在と見做される。

 ②宮妓……宮廷に奉仕する妓女。皇室主催の式典や祝祭、宴会に出席したりする。

 ③官妓……官庁に登録されている楽戸(楽籍という賤民身分の戸籍に属するもの)のこと。後世でイメージされる妓女といえば彼女らを指す。

 このうち家妓は妾と同じような存在でもあるので、詳しく述べるのはこの次の章でにしたいと思います。ということで、これから宮妓について纏めていきます。


 まず、彼女ら宮妓は歌舞音曲や曲芸でもって皇帝を楽しませるための、女芸人でした。宮妓に選ばれるのは、容姿・芸能ともに秀いた民間の楽戸や女芸人、更に一般家庭出身の女性たち。あとはたまに朝臣や外国の使節が献上した女性や、もともとは宮女だったけれど、選抜され訓練を受けた女性も含まれています。

 宮妓たちは、元々は礼楽を司る太常寺と、歌舞や伎楽(伎=芸人のこと)、雑技や俳優を司る教坊という部署の管轄に属していたのですが、玄宗の時代からは宮妓を統べるのは時代からは教坊だけになったそうです。玄宗は歌舞音曲を好んだので、優れた芸人を選りすぐって宮中に入れて養育したのだとか。


 さて、彼女ら宮妓は元々宮女だった者を除いては、同じ宮中に仕える女でも、宮女よりも位や身分が多少高いとされていたそうです。また、宮妓たちには幾つかのランクがあって、選ばれて宣春院(玄宗が作った、子弟に江南の音曲を学ばせるところ)に入った「内人」が最も身分が高く、なんと五品以上の役人しか身に付けられない佩魚※というバッジを付けることが許されていたとか。


 ※唐代の怪奇百科事典的な本「酉陽雑俎」によると、唐代では皇帝の姓である李と鯉が同音であることから、臣下たちには一種の身分証明書として、鯉つまり魚の形をした、その名もずばり魚符という物を渡していたそうです。この魚符は金・銀・銅で作られ、左右二つに分かれ、字が符の裏に刻まれていて、上の方に「同」側に「合同」という二つの字の半分が刻まれていました。頭部には恐らく紐を通すためのあなが空いていて、繋いで腰から下げていたそうです。

 魚符には出兵の時に用いる兵符と、五品以上の官・・・・・・が携帯する佩身符があったそうで(そのほか、宮城の門や城門を通行するときに用いる「開門符」という物もあったとか)、察するに佩魚というのは、この佩身符と同じものを指しているのでしょう。なお、魚符を入れる袋は魚袋ぎょたいと呼ばれていたとか。


 他にも、内人は宮女と比較すれば結構優遇されています。まず、彼女らは宮廷ではなく、宮廷の外の外教坊というところに住んでいて、家族とはいつでも好きな時に逢うことができました。それに、年老いて容色衰え、もうこれ以上芸人としてはやっていけないと思ったら、宮中を辞して家族の許に帰ることも許されていたとか。他にも、内人には季節ごとに宮廷から糧米が支給されるのですが、皇帝から特に愛された内人は常々の賞贈の他、邸宅をも賜っていたのだそうです。

 唐代においては宮妓とは芸術家・音楽家であって、宮女のような賤民とは決して同列の存在ではなかったのですが、彼女らが芸ではなくて身を売ることがなかったのかと断言することはできません。

 例えば玄宗の弟は、冬になると宮妓たちで周囲を隙間なくびっちり囲ませて暖を取り(これを彼は「妓囲」と呼んでいたそうです)、また別の弟は寒い時は宮妓の懐に手を入れて暖を取っていた……ということですから、お察しという感じですね。というか、寒いから宮妓の懐に手を入れるってなんなんだよ。火で焼いてあっためて、布でくるんだ石でも握ってろよ、玄宗の弟その2!!! 兄弟揃ってだらしねえな!!! 

 まあとどのつまり、宮妓とは皇室専用の娼妓だったのですが、宮妓は宮女同様、下賜品とされることもあったそうな。

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