お姫様たち ③
今回は公主たちの結婚や結婚相手についてです。
唐朝の皇帝は、自分の后を選ぶ時も家柄を重視していましたが、それは娘の結婚相手を選ぶ時も同じでした。なので、公主の夫として最も選ばれていたのは、縁戚の子息でした。たとえば皇室の外甥、つまり長公主の息子と公主が結婚するのは、当時「国家のしきたり」と考えられていて、最も一般的だったようです。他には、公主が母や父方の祖母の一族の男子と結婚することも多かったとか。娘が皇帝の后になれる家だったら、まず間違いなく名家ですものね。
縁戚の次に公主の夫として選ばれていたのは、功臣の家の子息でした。皇帝は自分の娘を家臣の家に嫁がせるのを「恩寵」と考えていたし、家臣にとっても最高の栄誉だったのですが、公主との結婚は家臣にとっては一種の災厄でもありました。なぜなら公主とは幼少期から我儘し放題で育てられた、前まとめ参照の所業を行う一種のモンスターであり、夫となるとはいえ一臣下の手に負えるような存在では断じてなかったからです。
最初の方でお話しましたが、そもそも唐の皇帝は漢民族の出ではありませんでした。唐の皇室・李氏は鮮卑という北方異民族の出身であり、中国の伝統的な教えである儒教をあまり重視していなかった。そんな中で育った公主たちにとっては、儒教が定める倫理道徳や女性としての礼儀などどこ吹く風。公主は降嫁しても夫の屋敷の中に別の邸宅を作って、自分の親戚を集めて宴会を作ってどんちゃんしていたそうです。それだけでなく、夫と顔を合わせた際などは、夫がまるで奴婢であるかのような偉ぶった態度を取っていたとか……。
公主が愛人を作るのは当たり前のことで、愛人どころか男妾の集団を囲うこともありました。伝統的に男が女を支配するものと思っていた中国社会の男にとっては、いくら高貴とはいえそんな女と結婚するなんて冗談じゃない、という感じだったのです。それに、迂闊に公主と結婚しちゃったら、政治闘争に巻き込まれる危険性もありますから。
上記の理由により、大抵の貴族は公主との結婚をできるだけ避けようとしていました。それでもこの災難を避けられなかった場合は、自分を公主の夫に推薦した人物を恨み、皇帝の前で悪口を言うこともあったとか。――って、それってどうなんでしょうね。娘婿が自分たちの結婚を取り持った人物の悪口言ってくるとか、聴いてる皇帝にとっては微妙すぎる。
さて。始まる前から暗雲が渦巻いている結婚が上手くいくはずもなく、公主たちの結婚及び家庭生活の大半は不幸なものだったようです。そう考えると、公主たちが奢侈や浮気に奔った理由も何となく分かるような気がしますね。
人間どんなに悪意を隠そうとしても、行動のどこかから漏れ出てしまうもの。ですから甘やかされ放題で育ってきたお姫様が、自分を皇帝の娘だというだけで疎んじている男との生活以外の所で慰めを求めてしまうのは、当たり前のことなのかも。とはいえ歴代の公主には夫に嫌われて当然の所業を働いている者もいますし……。
たとえばある公主は、夫の弟が危篤になったにも関わらず芝居見物に行き、皇帝を嘆かせました。あと、夫が外に囲っていた妾の耳と鼻を削いで上に陰部の皮を剥いで、その皮を夫の顔に被せるといった、浮気の報復にしてもやり過ぎなことをしでかした公主もいます。そりゃ、こんなことしてたら、あるいはするような女だったら、夫に疎まれて当然です。
公主の結婚生活が上手くいかなかったのは、公主の性格が酷すぎたために、夫が彼女を嫌ったからか。もしくは、夫やその一族が公主を邪険にしたから、公主の振る舞いが酷くなったためなのか。なんだか、卵が先か鶏が先か、みたいですね。ただ、唐も中期からは、皇帝が儒教を重視するようになりました。なので公主の振る舞いにも皇帝が目を光らせるようになったので、人々から賢婦と称される公主もぽつぽつ現れるようになったそうです。
このように、公主の婿はだいたい貴い家柄の子息だったのですが、またしても唐の中期から、婿選びの基準にいささかの変化が生じました。一つは、社会において文学を重んじる風潮が著しくなったため、科挙合格者から公主の婿を選ぶようになったこと。もう一つは、皇帝たちが山東貴族(某フリー百科事典にも詳しいことは載っていませんでしたが、この山東貴族という集団は、皇族である李氏を含む鮮卑系貴族よりも由緒正しい家柄と見做されていたそうです)の家風や礼法に憧れを持ったため、娘の嫁ぎ先を選ぶ際には相手の家柄や家風を重んじるようになったことです。ただそれでもやっぱり公主の結婚生活はあまり……。
また唐の中期以降から皇帝の権力が衰え始め、その代わりに藩鎮(地方軍のようなもの)の勢いが強くなったので、公主が藩鎮のトップやその子に降嫁することも多くなりました。いうなれば人質のようなものですが、この政略結婚はだいたい不幸に終わったそうです。
ただ公主として生まれただけで不幸な結婚生活を送ることになったんだから、たとえ財産や権力はあっても、公主の人生が幸福なものだったとは決して断言できませんね。そう考えれば、公主さまたちが哀れに思えてきますね。でも夫の妾のアソコの皮剥ぐのはダメだ……。
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