お姫様たち ②

 今回は公主たちがどんなリッチな生活を送っていたかについて述べていきます。

 前回述べたように公主たちの主たる収入源は食実封。加えて皇帝から賜り物を受け取ることもあったのですが、公主たちの欲望ではこれだけでは満たせなかったのです。荘園主でもあった公主たちは、田園や碾磑てんがい(中国の石臼のこと。転じて、製粉業を指すと考えられます)を経営したりしていました。それだけならまだ良かったのかもしれませんが、高利貸しをやって暴利を得たり、はたまた権勢を恃みに他人の財産を強奪したり、封戸から過分に搾取したり……。

 やってることが本当にがめつすぎて、ドン引きするレベルですね。強奪。なので皇帝たちも公主たちの我儘には頭を悩ませ、公主たちを何とか抑えよう、節制させようとしていたそうなのですが、中には皇帝の手に負えない公主も当然いました。その代表格として挙げられるのが、


・太平公主(三代目高宗と則天武后の娘)

・安楽公主(四代目中宗と皇后の娘)

・長寧公主(同上)


 の三人。ではこれから、の横暴・栄華ぶりを見ていきましょう。まずは太平公主から。


・都中に田園を所持する。

・経営する牧場が一万頭の馬を所有していた。

・絹の服を来た侍女を数百人持つ。

・死後調査したところ、彼女が蓄えた宝物の量は、皇帝のものをも超えていた。

・太平公主が甥である玄宗から死を賜った後、彼女が所有していた家畜や土地からの利息収入などは、数年に渡って国庫に納めてもなお尽きなかった。


 ざっとこんなもんですが、凄いですね! 流石、唐朝で一番封戸を持っていた公主です。太平公主は二人の兄弟が即位する手助けをしたので、政治・経済的にも最も力を持っていた公主でもありますし。

 では次は、安楽公主の所業を。


・一億銭のスカートを作る。

・民田十九里四方を強奪し、マイ池およびマイ庭園を作る。なんでもその庭の豪華さは、宮中の庭をも超えていたとか。

・民衆の家を取り壊して自分の役所を作る。そのせいで内庫(皇帝の私的な財産を収める倉庫)はカラになった。

・夫が自分専用のポロ場を持っていた。


 凄まじいですね。夫がマイ運動場を持っているのはともかく、民の田んぼを池にするとか。国家収入にも影響がありそうですね。一回自分の財布をカラにされたのに、皇帝は娘を諌めなかったんでしょうか。というか六代皇帝である玄宗の私的財産が太平公主に及ばなかったのは、もしかしてこのことが影響していたのでは? だって一回ゼロになっちゃったし。

 ……なにはともあれ最後に長寧公主のターンに入るのですが、彼女は姉妹である安楽公主と同じようなことをしていたのか、取り立ててエピソードは載っていませんでした。唯一上げられていたのは、


・長安、洛陽の二都で民田を強奪し邸宅を作った。洛陽の屋敷は百八に分けられていた洛陽の町の一つを占めていた。長安の屋敷は二十億銭の価値があった。


 ぐらいです。やっぱりすごいですね。

 また、この三人の公主たちでなくとも、公主という生き物は、


・一般民衆を略奪して奴婢にする。

・民衆を使役してお寺を建立する。


 といったことをやっていたそうです。ならば、上の三人の公主たちも、これぐらいはやっていたでしょうね。なんせ太平公主と彼女の同時代の公主は、「公主様たちの、封戸に対する取り立てが酷すぎる」と大臣たちが苦言を申すまでに搾取していたそうですから。それにしても、罪のない民に強制して寺を建てさせても、ご利益とかあるのでしょうか。全く期待できないし、むしろ、報いを受けて来世虫けらにされそうな気がするのですが。


 三人の公主以降は、公主たちの横暴も下火になっていったそうですが、それでもその生活の豪華絢爛さは凄まじいものだったそうです。

 唐末期になると財政は困窮し、公主たちの収入も自ずから減少していきました。ですがそれでも、十七代目皇帝の愛娘は金銀で作られた食器を使って、瑠璃で飾られた水晶製のベッドに寝ていたそうですから。そのベッドめちゃくちゃ寝心地悪そうですね。ついでに冷たそう。見た目的にも、冬は使いたくないなあ……。凍えそう。

 このように概ね欲望の赴くままに生きていた公主たち。彼女たちの横暴さは、唐代とは某神拳の使い手が活躍する世界だったのかと錯覚してしまうレベルです。しかし、中には振る舞いが酷すぎて宮殿に連れ戻された公主や、宮中で監禁された公主もいますのでご安心を! 悪もたまには罰せられていたのです。たまには。

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