後宮の女性たち 宮女たち③

 最近暗い話が続いていたので(最近だけでもないような気がしますが)、今回は少しは明るい話をしますね。具体的には、後宮から解放された宮女について。

 そもそも人間の男女比とは手を加えない状態では、ほとんど一対一になります。つまり皇帝が後宮に女を集めるほど、結婚できない男が増えることになる。というわけで、後宮という制度に対しての民間からの不満や同情も、また宮女とされた女たちの怨嗟の声も治まることがなかった(第十六代皇帝は宮女に殺されかけたそうです☆)ので、唐の歴代皇帝のほとんどは宮女を解放したことがあったそうです。一度に少なくとも数百人、多くて三千人ほど。「自分、善政布いてますよ~」というアピールや、「私は色事や遊興に興味なんて示さない、清廉潔白な君子です!」とアピールするため。はたまた宮廷の費用を節約するために。


 こうして後宮から解放された女性たちは懐かしい家族の許に戻ることも、結婚することもできます。既に身寄りがなくなっていれば寺院や道観(道教の寺院)に送られ、少しばかりながら金品を支給されていたそうです。

 ここだけ聞くと「イイハナシダナー」で終わるのですが、これで終わらないのが後宮という世界であり、このまとめだったりします! というのも、後宮から解放された宮女の大半は年老いて、身よりがなかったり身体が弱っていたりする者だったので、解放されたところで行くあてなんか無かったんですね! つまり、これは解放ではなく一種の解雇……? それに、新しい宮女はじゃんじゃん徴収されてくるので、根本的な解決には至らなかったのです。


 まあでも、皇帝も宮女たちの怨嗟を少しでも晴らすべく(じゃないと自分の命が危うい)ので、毎年一回・上巳の日(三月上旬の巳の日)に宮女が肉親と会うことを許可しました。その日、宮女は興慶宮の大同殿の前に集まって、親族と再会を喜んだり、贈り物をやり取りしたりできたのです。ただし、集まる人の数は数千から一万に達したので、どんなに探しても肉親に会えず、泣きながら後宮に戻る宮女も毎年いたとか。切ないですね。切ないまま終わると哀しい気持ちになるので、これからは明るい話をしたいと思います。伝奇・伝承に近い逸話ではありますが、宮女に纏わるこんな話もあるんだよ~、ということで。


 時は唐朝第六代皇帝・玄宗の御代。ある詩人は、宮中を流れる掘川から、一枚の大きな青桐の葉を拾いました。そしてその葉を見てみると、なんと宮女が自分の境遇を悲しんで詠んだとおぼしき詩が記されていたではありませんか。詩人はその詩に合わせた内容の一首を作って(多分同じように木の葉に書いて)川の流れに任せました。玄宗はこの話を知り、少なからぬ宮女を後宮から解放したそうです。


 また上の逸話に似たような話は、さっき宮女に殺されかけていた第十六代・宣宗の御代にもあったそうです。話の筋書はほとんど上記の例と同じ。宮女が詠んだ我が身を哀れむ歌を、川の流れからある男が見つけます。玄宗の時代の逸話とはっきり違うところといえば「歌を詠んだ宮女が解放されたと明らかになっている」「その宮女が詩を見つけた男性と結婚している」ぐらいですかね。こっちの方がロマンチック。ですが私は「葉っぱに墨で書いた詩とか、運よく見つけてもらっても滲んで読めなくなってるんじゃねーの!?」ということが気になってロマンチックに浸り切れない……。使用された筆記具については特に言及されていませんが、どうせ墨と筆でしょうから。


 筋書は酷似しているけれど登場するアイテムが違う話もあります。舞台はこれまた玄宗の御代。ただし、玄宗が楊貴妃と出会う前。玄宗が名君と讃えられていた頃のことです。

 ある宮女は、辺境守備を担う兵士のために軍衣を作りました。すると後に、一人の兵士が綿衣から詩を見つけました。それは、

「戦場は寒くて、兵士たちは眠るのにも困っているだろう。私が心を込めて縫ったこの綿衣を着るのは誰なのだろう。今生では会えないだろうけれど、来世では出会いたいものだ」

 という内容の詩でした(※超適当な意訳・要約です)。この話を知った玄宗は、この詩を詠んだ宮女を探し出し、その兵士に嫁がせたそうです。また十八代皇帝の御代には、戦袍に縫いこまれた金の首飾りと詩一首が発見された、という逸話もあって……。ロマンチックですね! と言う訳で、このまとめもたまにはロマンチックなままで終わりたいと思います!

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