後宮の女性たち 后妃たちの生活②

 唐代三百年間のうち、「新・旧唐書」「后妃伝」という書物に名を残している后妃は、皇后と息子が即位した女性と、あと家柄がいい妃の計三十六人。そのうち約半数に及ぶ十五人が、非業の最期を遂げているそうです。こっわー。

 高位の后になれても、決して安心はできない。むしろ、天寿を全うできる可能性はただの宮女の方が高いんですね。後宮での生活で天寿を全うできても、それが本人にとって幸せなこととは必ずしも思えませんが。一部の幸運な女性以外にとっては、後宮に入るのって生きながら墓に入ることを意味していたのかもしれないな、と思ってしまう今日この頃です。

 さて。ここからはそんな正史に名を残すことはできたが悲惨な最期を遂げた彼女らが、なぜこのような運命を辿らねばならなかったのかについて述べていきます。つまり、彼女らの死の原因について。


 まず第一位は――政治闘争! やっぱりこれですよね!

 政治闘争の犠牲となって散って逝った后といえば楊貴妃。楊貴妃自身は政治に興味を持たなかったけれど玄宗が彼女の一族を厚遇しすぎたため、安史の乱が起きて……。哀れ、楊貴妃は「貴妃を殺さなければ従わない」と兵たちに脅された玄宗の命によって、絞め殺されてしまいました。

 楊貴妃の他にも、家族の罪に連座させられたり、政治の犠牲となった后はいます。則天武后の息子・中宗の妃は、母親である常楽長公主(長公主は皇帝の姉妹のこと。後に詳しく説明する予定です)と則天武后の間に争いが起こったため、宮廷の一画に監禁され、終にそのまま死亡してしまいました。また則天武后の別の息子の后二人は、無実の罪を着せられた上に、則天武后の命令で殺されてしまいました。

 上記の四人よりマシな例としては、長兄が罪を犯したため夫である皇帝との離縁を余儀なくされた后が挙げられるでしょう。彼女は尼僧となり、宮中で仏に祈りながら余生を送ったそうです。栄華からの転落って、残酷なぐらい呆気なく訪れるんですね。


 そして次なる第二位は――皇帝の寵愛が薄れること。これも恐ろしいですね~。

 昔はどんなに綺麗だった后でも、年を取れば大抵は「年の割に綺麗なオバサン」になり下がる。美人が雲霞のごとく群がる後宮において、容色衰えた后が皇帝の寵愛を再び受けられる可能性など皆無に等しい。そうでなくとも、ちょっとしたことで皇帝の気を損ねしまえば……。

 たとえば玄宗は、武恵妃という女性に夢中になった後、艱難辛苦を友にした王皇后(いわば古女房)を廃し、彼女を庶人に落としました。玄宗ひっど。まあ他にもひどい目にあった后妃はいて、則天武后が皇后に登る上で敵となった二人の后妃は、語るも悲惨な最期を遂げているのですが。

 考えてみれば容姿が衰えた後でも、皇帝に容姿以外の面で愛されていれば望みはあるかもしれないですね。楊貴妃は美しいだけでなく、玄宗が一緒にいて楽しい・安らげると感じられる女性だったから、長きに渡って寵愛を独占したのだそうですし。でも、後宮において皇帝の目を惹きつけるにはまず並外れた美貌が必要でしょうから、うーん。後宮で生き抜くのって、難しい!


 さて第三位は、夫である皇帝の死、です。これは、皇帝の子を産んでいない后にとっては、全ての地位と栄華を失うことを意味します。そして、仏寺に送られるか、後宮の中で惨めに落魄して死んでいくのです。また特殊な事例ではありますが、皇帝に殉死した后もいます。

 皇帝の子を産んだ后のうち次の皇帝の母ならば、基本的には何も心配する必要はありません。だからこそ后妃たちは、皇帝の寵愛を巡って争いあい、息子が生まれれば我が子を帝位に着けようとしたのです。なんせ自分の命がかかっているから。

 たとえ産んだ子が帝位に登れずとも、子供がいる后はそれなりの地位を得ることができました。しかし、太后になったはいいものの、元々は自分の侍女で、恐らくいじめたりしていた后の息子が後に皇帝となり、意味深な死を遂げた后もいるので最後まで油断はできません。

 ……最後までドロドロしたまま后妃編は終わります。次からは、ドロドロ宮廷劇を最も間近で見続けた宮女編です。

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