後宮の女性たち 後宮に入るまで②
今回も前回に引き続き宮女が後宮に入るまで。前回はだらだらしていたので、今回は巻いていきます!
②選抜されて後宮に入った場合
この場合の女性たちは、主に后妃ではなく后妃に仕える宮女となる女性たちです。こういった方々は高貴とはいえないまでも良い家のお嬢さんだったのですが、ものすっごい幸運が重なって皇帝の寵愛を得、産んだ息子が即位するか死後に位を追贈されなければ「后」と呼ばれることはありませんでした。また、大多数は官僚や士人の娘だったとはいえ、そうじゃない方々も混じっていたのです。
なぜなら名門の娘だろうが貧しい家の娘だろうが、はたまた賤しいとされていた娼妓や俳優だろうが、優れた容姿や技芸を持ってさえいれば、皇帝にとっては「どれも同じ」だったから。ちなみに、品行も特に問題にされなかったとか。皇后を選ぶ時には家柄がどうのこうの言ってたけれど、「為政者ではなく男として」周囲に(つまり寝所にも)侍らせる女を選ぶ場合は、ただただ見た目だけで選んでいたってことですね! 当たり前っちゃあ当たり前のことだけど、生々しい本音がむき出し!
実は、唐朝の初めごろは後宮や皇太子の宮殿の(=皇帝や皇太子の目に留まり、国母となる可能性のある)女官に欠員が出た場合でも、身分が低い家の娘が女官に選ばれることもありました。ですが二代目太宗の頃から、皇太子や諸王の妃となりうる女を選ぶ際には良家に拘り始めたのです。
が、「宮女」選びは庶民の娘でも対象になる。なので、皇帝の使いが宮女を探しに来た時は、庶民の皆さんは恐れおののいたそうです。美女が雲霞のごとく群がり、妃嬪たちの嫉妬の目が光る中、並み程度の家の娘が皇帝の寵愛を受け皇子を産むには並外れた強運が必要です。ですが念願叶って寵愛を受けても、帝王の心は移ろいやすいもの。いつ飽きて捨てられるか、はたまた宮廷の陰謀に巻き込まれて、産んだ子共々命を落とすかわからない。もしかしたら、死を賜ることになるかもしれない……。
運に恵まれなかった代わりに一生を安穏の内に負えるとしても、宮女である限りは結婚もできず、同世代の宮女ではない女たちが子を産み育て孫を得る中、何者も得られず虚しく消費してしまった青春を嘆き独り涙する定め。であるのに、宮女になりたいと望む女などいないし、自分の娘を宮女にしたいと望む親も、いないと断言しても過言ではなかったのですから。まあ、でも、六百人に一人は集められちゃったんですけどね……。
③献上されて後宮に入る場合
これはズバリ、自分の出世や栄耀栄華のために、自分の妾に娼妓や俳優のみならず、民間の綺麗な女性を皇帝に「贈った」のです。絹の織物とか金銀財宝とかと同じ扱いで。ちなみにある家臣は、自分の美人な妻と娘を皇太子に献上して、高官になったそうな。……この家臣は、そこまでして名誉を得たかったのでしょうか。非常に浅ましいですね! 妻と娘をモノ扱いか~。
なお、具体例として挙げたのは家臣の事例ですが、実際に女性を献上するのは皇族や大臣、節度使(辺境警備を担う軍人のこと)が多かったとか。
④罪人の家の女性が、宮廷の婢とされた場合
これは家族の罪に連座して、はたまた自分が罪を犯したために、奴婢として後宮に入れた女性たちです。唐の法律では謀反及び大逆罪を犯した官僚や士大夫の家の女(罪人本人の母、妻子のみならず、妾や子孫も含む)と奴婢のうち「技芸に巧みな者は」皆後宮に没収され、奴婢とされる決まりがあったのです。そうして後宮に入れられた女性の内、一部が宮女となりました。ちなみに、得意なことが無い場合は、官奴婢(国家が保有する奴隷)として労働させられます。
一夫一妻多妾制を発達させた中国の例にもれず、唐代においても法律は妾を無制限に持つことを許していました。しかし、妾を別宅に囲うのは禁止されていたので、官吏たちの「別宅婦」が宮中に没収されることも少なくなかったそうです。
しっかし、どうして別宅で妾を囲うのが駄目なんでしょうね。同じ囲うにしても、同じ家に妻妾を同居させる方が、そうではない場合よりもよっぽど残酷な気がするのですが。――正妻にとっても妾にとっても、同じ家で互いの顔を見ながら生活するのは嫌に決まってるだろ! 囲う側にとっては便利かもしれないけど! どう考えても昼ドラ的な事件起きまくりじゃねえか!
……なにはともあれ、罪のために集められた彼女らのほとんどは元々は良家の出でありますが、もはや官婢でしかない。つまり後宮の女としては最底辺に属していたので、味わう苦労や悲しみも並々ならぬものでした。ですが玄宗は身内の罪に連座させられた女性のうち良家の女性を選んで皇太子に賜り、うち一人は後に皇后となったそうなので、官婢でもごくごくごく稀には幸せになれたのかもしれません。宝くじに当たるのと同じぐらい確率は低かったでしょうけれど。
こうした概ね四つのパターンを経て後宮に集められた女性たちは、だいたいは十三歳か十四歳のうら若き乙女。その中で幸運にも皇帝の目に留まるのはほんの一握り。それ以外の女性たちの心痛たるや、想像するに余りあるものがありますな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます