その⑨

 今回は、前回述べたように二次的爆傷についてご紹介していきます。二次的爆傷とは、一口にまとめてしまえば以下のような創傷を指します。


 二次的爆傷:破片による創傷のこと。

 

 つまり、戦場で負う怪我の原因はほとんどこの二次的創傷になります。まあそれもそうですよね。一次的爆傷や三次的爆傷の原因となる衝撃波や爆風が届く場所なんて、広大な戦場においてはほんの一握りの場所でしょうし。

 破片は弾丸とは異なり形状も様々で、しかも高速で動くため、当たってしまえばこれまでも述べてきたように酷い傷を負ってしまうことになります。しかも、戦場において何かが爆発した時に破片が一つしか飛ばないなんてことはありえないので、多くの場合は複数箇所に同時に傷を負ってしまう。

 ただし、破片は銃弾のように空気抵抗を意識した形状にはならないし(当然)、重さも各々でバラバラなので、当然のごとく空気抵抗の影響により速度は急激に減少。爆発地点から遠方に居れば、怪我の程度は軽くなります。まあ、昨今には速度や距離に関係なく、殺傷力を発揮できるように設計された兵器があるそうなので、ご注意を! 頭部に何らかの損傷を負うと失明したり、最悪の場合は命を落としてしまうことになりますから。


 爆発地点では吹き飛ばされたガラスや木材、土なども創傷の原因となり、感染症の原因となります(ただし、これらはどちらかといえば四次的爆傷に分類されます)。加えて近年では、自爆テロを行った者がHIVや肝炎ウイルスに感染していた場合も問題視されているそうです。そりゃあ、負傷者のみならず医療従事者にも被害がでてしまうかもしれないですからね。


 二次的爆傷からは話がそれてしまうのですが、銃による創傷というのは、対象となる組織の弾性によっても被害の程度が違います。

 筋肉や筋膜、腱といった部分は弾性に富んでいるので、銃撃距離が500~1000m離れてしまえば、そう酷い傷は負いません。とはいえ、当たった場所によっては致命傷になってしまいかねませんが。

 しかし弾性に乏しい脳や肝臓は弾丸のエネルギーを受けると壊滅し、ある程度は弾性がある膀胱や腸、胃、胆嚢は限界を越えると裂けたり破裂したりします。パンパンに水を入れた風船とそうではない風船では、床に叩き付けた時にパンパンに膨らませた方が破裂しやすいので、膀胱や胃などの臓器は「中身が入っていたか」によっても被害の深刻度が違いそうですよね。


 ――おぉーっと! ここで今回語るべきネタが尽きてしまいました!! ということで、このまとめもそろそろ終わる予定なので、ここからはうっかりまとめ忘れていた情報や気になった事柄をご紹介していこうと思います。


①初期のミニエーボールについて

 ミニエーボールはナイチンゲールも大活躍したクリミア戦争で大々的に実践に投入され、敵味方ともにその威力に驚きました。しかし、初期のミニエーボールは口径が18.5mm(ほぼ2cm……直撃するとヤバいですね)と大きく、その分弾自体も重くなり、ということはその分反動も大きくなるため、体格に恵まれた熟練の射撃手でなければ扱いきれなかったそうです。一般の兵士は強烈な反動を嫌い、装薬量を抑えていたので、せっかくの威力と命中力を発揮できなかったとか。――これどうしてまとめ忘れてたんでしょうね! 不思議!!


②ライフルが変えた戦術

 マスケット銃は命中率が実は低い。ということでマスケット銃がメインだった時代は、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる方式で、密集隊形を組んだ敵目がけて一斉に狙撃し、運よく何発か命中して隊列が崩れれば、そこに銃剣突撃を食らわせていたそうです。そんなところにマスケットと比較すれば命中率は数倍、250m先までの狙撃をも可能にするライフルが登場します。そして初めて、司令官や将校といった特定の人物や、弾が当たれば致命傷となる部位を狙った狙撃が可能になったのだとか。……これももっと前に説明しておくべきことですよね~。数週間前の私は一体何を考えていたんでしょうね~。


③第一次世界大戦期のイギリス軍のある試み

 この話はナポレオン戦争からは完全に離れてしまうけれど、とても印象に残っているのでご紹介いたします。本筋から離れているので詳しい説明は省略しますが、第一次大戦期は「捕虜がこれを所持していたら即処刑してOK!」とまで言われた、悪名(と殺傷力)高き「ダムダムブレッド」という弾丸があります。名前の由来は、イギリス軍が運営するダムダム造兵廠から。ちなみにダムダム造兵廠はインドのカルカッタにありました。……植民地。


 この弾丸、1899年にハーグ陸戦条約により戦場での使用は厳罰に処すと定められたのですが、イギリス軍は第一次大戦中もこの弾丸を使い続けたそうです。とはいえイギリス軍も流石に禁止された弾丸を使い続けることはできなかったのか、新たな、しかもダムダムブレッドよりも酷い銃傷を負わせる弾丸を使い始めます。

 この新式の弾丸には、「被害が甚大なもの」と「比較すれば酷くないもの」の二種類があり(※あくまで比較すればの話で、どちらの弾丸も以前の弾丸より著しい銃傷の原因となりました)、イギリス軍は酷くない方を同じ白人の敵兵に、酷い方を植民地の有色人種の(イギリスから見た)蛮族に対して使用していたそうです。凄まじい人種差別ですね! 流石、三枚舌外交やってた頃のイギリスの汚さは格が違うなあ、と「殺すテクニック」を読んでいて最も印象に残ったエピソードでした。

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