その⑦
今回は前回述べたようにミニエーボールについてご紹介していきます。そもそもまずミニエーボールとは何か説明させていただくと
椎の実型で、底の方に三つの溝が刻まれている弾丸
のことです。弾丸を縦に置けば、スカートのように見える部分には装填を容易にするためグリース(潤滑油)を塗る溝が二つか三つ刻まれ、底のへこみには鉄製のプレート(※後に改良が進んで不要になりました)が埋め込まれています。ミニエーボールはざっくりと語ってしまえば、現代に生きる私たちが
一度染みついた常識や思い込みから逃れて物事を考えるのは難しい。それで当たり前のことだと思っているから、その思い込みに根拠がないことに気づくのはもっと難しい。だけど、フランス軍のその名もミニエー大尉は、ある日こう思ったのです。 ――
また命中率も
目標までの距離(m) スムースボアの命中率(%) ミニエーボールの以下略
90 74.5 94.5
180 42.5 80
270 16 55
360 4.5 52.5
とうなぎ上り! 飛距離と命中精度がアップすれば、それまでの歩兵戦術の主役たる横隊など、格好の的でしかありません(※)。ということで、ミニエーボールの登場により散兵戦術の導入は必須となり、教練を根本から改めなければならなくなりました。
※ナポレオンは銃剣攻撃をメインにした縦隊や散兵を巧みに取り入れていたけれど、基本的には横隊戦術を用いていました。
ところでミニエーボールは(銃口の直径よりも小さいので)銃身との間に隙間があり、そのまま発射してしまえば隙間から発射ガスが漏れてエネルギーが無駄になってしまいますが、ここで底のキャップの出番です。発射の際は底に埋め込まれたプレートがガスに押し上げられ、スカートの部分が拡張するため、弾丸と施条がしっかり噛み合うようにできています。そうすれば発射薬も完全に燃焼するし、精度も威力も飛距離もアップしたし、でいいことづくめですよね! 安全な場所で兵士たちに命令を下す側にとっては。
というのも、ミニエーボールはクリミア戦争で初めて使われ、南北戦争で本格投入されたのですが、それまでとは比較にならない被害を兵士たちに与えました。なぜかと言うと、ミニエーボールは見た目こそレトロだけど威力自体は現代の銃による傷とほとんど変わりないし、金属としては軟らかな鉛でできているので変型しやすい分、なんならミニエーボールによる傷の方が厄介なのです。
銃創つまり銃による傷は、
永久空洞:弾丸が身体の組織を突き進んだ後に残される痕
瞬間空洞:弾丸の変型または破片化により、組織が瞬間的に伸展されてできる痕
で形成されます。
弾が変型もせず骨にも当たらず貫通してくれればいいですが、変型したり骨に当たってしまった場合、エネルギーを負傷者の体内で使い切ってしまうので、傷の程度が酷くなってしまうのです。つまり、変型しやすい弾は危険なんですね。また、ミニエーボールは鉛で出来ているとはいえやっぱり弾丸なので、当たれば尺骨、橈骨などの細い骨は粉砕されて、粉砕された骨は新たな破片となって人体を傷つけます。
加えて、射入口は軍服の繊維で汚染されていることも多かったので、銃創が四肢の筋肉の下まで及べばほとんどの場合切断です。でもそれでも、命があるだけまだましなのです。腹部を撃たれた南北戦争当時の兵士は腸が飛び出したり、裂けた腸から糞便がもれて感染症を引き起こしたりで、87%の確率で死に至っていましたから(胸部は62%)。
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