不能の種類と原因 ③不能のまじないの対処法

 イェーイ!!! 田所、春のおまじない紹介祭、始まります!

 今回ご紹介させていただくおまじないのジャンルは何と……不能!!!

 ワクワクしますね。とってもワクワクしますね! これで憎い相手を不能にするも、かけられた呪いを解くも、思いのまま、です!!! ……多分。

 では、さっそく本題に入ります。

 

 男性ならばより親身に。女性であれば多少の面白さを含みつつもご理解いただけるでしょうが、呪いによる不能は数多の人々の心に恐怖を植え付けていました。現代の男性がバイアグラだとかマカとかに縋るように、中世ヨーロッパの男性もまた、何とかして不能の呪いの影響から逃れようとしていたのです。そのためには、地方差はありますが、


・夜に結婚式をやったり、秘密裡にやったりしない。

・新郎新婦を心置きなく祝福する。

・結婚指輪を地面に投げる(この方法は、教会会議で非難されていますが……)。

・初夜の少なくとも三日前には、夫婦となる者たちに告解をさせる。

・ポケットや靴に塩を入れる。

・結婚指輪を幾つもはめる。

・結婚指輪を花嫁の指の第一関節までで止める。


 といった予防措置が取られていたそうです。が、こういった風習は、時に迷信に過ぎないとして非難されていたのもまた事実です。これは完全な推測ですが、教会の人々は、自分たちがあずかり知らぬ所で、神聖な儀式である婚姻の秩序を乱されたくなかったんですかね? 

 二番目の「新郎新婦を心置きなく祝福する」は、それぐら普通だろ、とツッコみたくなってしまいますよね。というか、招かれた以上は新たな夫婦の門出を心から祝福するのが人間として当然のことなんじゃないでしょうか。例えば花嫁が密かに片思いしていた女性だ、なんていう事例ならば話は別ですが。


 また、中には「婚前交渉」を不能のまじないの予防策とするツワモノというか道楽者もいたそうです。結婚に乗り気じゃない恋人と結婚するために、教区裁判官に「僕たちはヤっちゃったから結婚しないといけません!」(とっても適当な要約です)と宣言した恐れ知らずがいたのだとか。

 婚前交渉? それやっちゃアカンやつやろ、と反論した裁判官に、

「僕は以前不能のまじないをかけられ、非常に辛い思いをしたことがあります。だからその予防です!」

 彼はしゃあしゃあと答えたのだとか。これだけ図々しい言い訳考えられるような図太い精神の持ち主は、多分一生ストレスが原因の不能にはならないんだろうなあ、と何だか遠い目になってしまいます。


 現代男性にバイアグラやマカがあるように、不能のまじないを予防する術があるのなら、かけられた魔術を解く術も考案されていました。


・他人の結婚式で、新婦が花嫁の指に指輪をはめている好きに、結んだリボンを切って火に投げ込む。あるいはティビ・ソリ……(本では意味が紹介されていなかったのですが、魔法の呪文なんでしょうか?)と唱えながら足元に投げる。


 といった方法を採れば、呪いを新郎新婦に肩代わりさせることができると考えられていたそうです。他には、


・呪いにかかった夫婦を全裸にして石畳か地面に寝かせ、夫に妻の左の親指にキスさせる。次に、夫婦に跟で十字を切らせ、その次に手で十字を切らせる。

(足指にキスとか、どんな倒錯にして屈辱のプレイなのか。しかも互いに全裸で、だなんて! ……なんだかとっても胸が高鳴ります)

・新郎新婦が真の夫婦になる前に、一枚の紙にオムニア・オサ・メア……(また良く分からない呪文が来ましたよ~)、もう一枚にキス・シミリス……と書かせ、一枚目を夫の右腿に、二枚目を妻の左腿に縛り付ける。

・未開封の白ワインの樽に穴をあけ、出て来る最初のワインを婚礼の日に花嫁に与えられた指輪に注ぐ。

・自分たちが結婚した教会の鍵穴に尿をする。場合によっては、望みが叶うには三日か四日かかってしまうが、その間は毎朝必ず。


 という方法があります。最後のなんか罰当たりも甚だしくて、その不能の原因が暇を持て余した神々の遊び(前話参照です)でなかったとしても、神にさえ呪われてもっとひどいことになりそうなものです。が、当時の人々は大真面目だったのでしょう。しかし、こんなやり方じゃよっぽど早起きしない限りはいつか誰かに目撃されてしまって、「あいつ、アレが使えないんだって~」なんて噂を広められてしまいそうです。

 更に、当該夫婦が属しているのが村などの非常に狭いコミュニティーだったら。一日も経てば噂は村中で共有されてしまっていて……あちゃー、ですな。


 ……何はともあれ、種々雑多な不能の解呪法のうち、最も効き目があると言われている方法をご紹介しなければなりませんね。

 <シャトー・ダンのある教区検察官>の方式。これこそが不能の呪いに立ち向かう最強の術なのです! では、以下でさっそく詳細を……。

 自分たちにはどうも不能の呪いがかけられているようだ、と新婚夫婦に訴えられたある検察官は――


 1.当該夫婦を自分の家の屋根裏部屋に連れて行く。

 2.一本の柱を間にして、夫婦を向かい合わせに縛り付ける。

 3.当該夫婦を何度も鞭打つ。

   (いきなりこれまた倒錯的になってきましたね)

 4.縄を解き、それぞれに粗末なパン一個と上質なワイン一壜を与える。

 5.部屋に鍵を掛け夫婦を閉じ込め、一晩中二人っきりにさせておく。

 6.翌朝六時に扉を開けると――溌剌として仲睦まじげな夫婦の出来上がり!


 という手段で夫婦の危機を解決していたそうです。

 このショック療法? を私なりに咀嚼させていただくと……。同じ鞭打ちの苦痛や、辛苦からの解放後に訪れる生の喜び(食事)を共有させることで、互いの親密度を高めさせること、を目的としているのではとの解釈に至りました。飢餓感により食欲が増せば性欲も上昇しますから、食事もあえて質素にしているのでは、と。

 まあ、当の検察官が他人に鞭を打つことが大好きな変態さんで、趣味に耽っている間にたまたま大発見した、という可能性もありますけどね! 下種の勘ぐりすみません!


 婚礼の儀式をやり直すという方法も、他の、ある程度信頼を得ていた解呪法として挙げられます。悩める夫婦がもう一度やり直せば、悪の効力を払うことができると信じられていたそうなのです。

 この方法は、ある聖職者には信じがたい無知だとか狂気の沙汰だとか、神を冒涜する行為、だとか散々に罵られていました。が、一方で「悪に対する罪のない治療法」(原文ママ)だと好意的に捉える聖職者もおり、意見が分かれていたそうです。

 別にそれぐらいいいじゃん、と私も思いますね。少なくとも教会の鍵穴に尿をかけるよりは断然いいはず。


 今回ご紹介させていただいたのはどれも突飛なものばかりですが、思い込みの力とは案外侮れないもの。実際、婚姻のやり直しによって、十五年も触れることができなかった妻と三人の子を作った貴族の記録も残っているのだとか。


 さて、これまではその要因が内的なものであれ、外的なものであれ、これまでは男性に原因がある不能を述べてきましたが……。世の中には、稀にですが存在していたのです。女性の不能、という事例が。

 不能裁判の記録の5%を占めるレアケースたる「女性の不能」について、次回はまとめていきます。

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