苦悩の梨
何の変哲もない、そこらに転がっていそうな縄も、あなたのアイデア次第(※「鞭打ち」参照。例えば、結び目を作ったり塩水に漬けたり……)で他者をいたぶるための陰湿な道具になる。前回までご紹介したのは、そのような拷問であり処刑でした。なので、今回は「純粋に拷問のために」考案された道具を使った拷問を紹介したいと思います。
16~18世紀のヨーロッパで使用された「苦悩の梨」は見た目だけならば極めて優美ですらある拷問道具でした。この金属でできた梨がどのような外観をしているかの説明はググル先生にお任せします。百聞は一見に如かず。私が乏しい語彙を尽して説明をしても、視界からダイレクトに来るインパクトには敵わないので。だから皆さん、ググル先生で「苦悩の梨」と検索してみてください。私がこの話を書いている2018年1月20日現在では、私基準では残酷な画像は出てこなかったので大丈夫なはずです。あくまで※作者基準で、ですが。
今までさんざんエグイ話されてるんだからお前の感性なんて信用できねーよ、という方のために、以下で稚拙なものながらこの梨の外観を説明を述べさせていただきます。
苦悩の梨は三、四枚の金属片が組み合わさってできた、その名の通り梨(日本の丸っこい梨ではなく、ラ・フランスに代表される洋梨を想像してください)、あるいはナスや花の蕾に似た器具です。この金属製の果実にはちょっとした模様なんかが彫り込まれたものもあります。画像検索で見つけたそういったタイプの梨は、見た目だけならばインテリアとして使えそうな代物でした。
本物の梨に例えるとヘタ(ちなみにこのヘタにも、非常に優美なデザインをしているものがありました)に相当するような取手もついているこの器具は、使用された当時の技術を鑑みると非常に精巧に作られた「精密機器」でした。先程述べた取手には調節ねじやばねが仕込まれていて、ミリ単位の細やかさで花弁を開き、任意の角度で固定できるのです。なぜ梨は開かれるように作られているのか。その理由は、おいおい明らかにしていきます。
どんなに繊細優美であろうと拷問器具は拷問器具。苦悩の梨は口、膣、肛門に差し込むために考案された道具でした。丸みを帯びた、先端に向かうにつれて太くなっている流線型のフォルムは、人体の開口部にねじ込みやすく、しかも一度差し込んだら抜けにくくするためのものです。サイズが合わない指輪とかも、嵌めるよりも外す方が大変ですしね。
さて、苦悩の梨を用いた拷問には
①犠牲者を飢えさせるため
②人体を内側から破壊する
という二つの種類がありました。苦悩の梨が開発された当初は①のために用いられていたそうです。いわば猿轡の代わりとして、犠牲者の口を塞いで飲み食いを不可能にするために使用されていたんですね。ちなみにこの目的で苦悩の梨を使われた者は「梨を食べて餓死する」と何だか皮肉に表現されていたとか。
日本では犠牲者を飢えさせたり口を塞いだりするために猿轡が用いられていますが、ヨーロッパでは顔にぴったり被せて使う「飢餓のマスク」が広く用いられていました。このマスクは、窒息防止のために犠牲者の口に舌のような鉄ベラをねじ込むような構造になっていて、首の後ろで固定して柱や壁に繋いで使用するのだとか。ただし、顔を覆ってしまうため、犠牲者の表情を読み取りにくく、餓死させてしまうこともたびたびあったようで。それに比べれば、苦悩の梨は犠牲者の表情が分かりやすくなっているから、拷問に向いていたのでしょう。
こういった飢餓刑においては、拘束された犠牲者の前にごちそうを並べ、更に執行人がこれ見よがしに飲み食いして耐えようとする心を苛むこともあるのだとか。更に、犠牲者が極限状態になった頃合いを見計らって器具を外し、好きなだけ食べさせることも。
長時間食物を取り込んでいなかった胃腸の機能は当然低下しています。鳥取城の飢え殺しにもそんな話がありましたね。
慢性的な栄養不足状態の後で暴飲暴食し、石造りの寒い牢に放置されては、たちまちお腹を下してしまう。おあずけ、暴飲暴食、下痢の三連コンボを喰らえば犠牲者の体力と気力はみるみる衰え、ついに拷問に屈服してしまうのです。
②のタイプは恐らくは①の発展形として行われるようになった拷問です。歯を食いしばることでしばらくは抵抗できる口よりも、抵抗しようにもできない膣や肛門が狙われるようになった結果として、裂くための梨も作られるようになったとか。
口や肛門用の梨の全長は15センチほど、膣用の者は更に大きく作られていました。これらのいずれも、梨が閉じた状態で目標の部位にねじ込まなければ入らない大きさです。
使い方は①と同じで、入れた後に拡張し、内側から裂いていく。この梨が膣や肛門に使用された場合は、拡張の度合いであってはそこは深刻なダメージを負い、機能を失ってしまいます。ダメージが小さかったとしても、損傷部位に適切な治療を施すのは当時の医術のレベルでは難しく、結果として化膿のために死亡する人も多かったとか。
苦悩の梨は細かな調整が可能であり、また尋問しながらゆっくりと果実を開いていけば、被拷問者は恐怖のためか比較的早い段階で自白をするようになる。それこそがこの梨の大きな利点です。
もう一つの利点としては「外側には損傷を加えずに内側のみを破壊できる」つまり、拷問の痕跡は外側からは観察できない、ということが挙げられます。もしも無実の者がこの刑を受け、幸運にも命あるうちに釈放され、被害を受けたと告発しても誰にも信じてもらえないのです。また、口腔を損傷させられていれば、喋ることも不可能になってしまう。これでは受けた被害を誰にも訴えることができなくなります。
他にも、苦悩の梨は性的倒錯、姦通、近親相姦(大ざっぱに纏めてしまえば、教会が認めていない性行為、ですね)や悪魔との性行為を認めさせるために使用されていたようです。また、異端審問や涜神の罪を犯した者にも使用されていたとか。この時はもちろん、罪を犯した口を苛めるために、口用の梨が使われていました。
綺麗な外観の割にやることはえげつない苦悩の梨。
ですが、更に、とんでもなくえげつない梨がこの世には存在しています。先端に針やトゲが生えた梨。これを突っ込まれてしまえば、口ならば喉が、膣ならば子宮頚管が、肛門ならば直腸どころか大腸までもが……どうなるかはご想像にお任せしたまま今回のまとめを終わります。
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