車輪刑 ②その種類
大まかに分けると車輪刑には
①犠牲者を地面に縛り、執行人が車輪を上から叩き付けて四肢を折る。
②大きな車輪に犠牲者を括りつけ、四肢を棍棒などで粉砕する。
の二つのタイプがありました。前回ご紹介したように車輪に犠牲者を括りつけて車輪で殴る、という刑罰も行われていたようですが、有名なのはこの二つ。なので以下で方法別の特徴を述べていきます。
①では、車輪は棍棒などの殴打のための道具の代わりとして用いられています。大腿骨などの固い骨をも砕くためには、車輪に相当の重量がなくてはなりません。が、重すぎて狙った場所に振り下ろせなくなるのもまずい。ということで、力持ちの執行人ならば直径1メートルほどの大きさの車輪を用いていましたが、通常はもっと小さな物が使用されていたとか。
車輪刑で使われていたのは、刑具として作られたものか、新品の車輪だけでした。新品を用いるのは、前述の太陽崇拝の名残だそうです。
①では、刑の執行にあたって、犠牲者は裸かそれに準ずる格好にされます。
仰向けの状態で地面に横たえられます。大の字のようなポーズで伸ばされた手足足首は杭に繋がれ拘束され、四肢と胴体の下に三角形の角材が差し込まれます。犠牲者の身体は宙に浮いた状態になり、手足を砕きやすくなりますね。また、時には犠牲者を絶命させるためではなく、犠牲者の苦しみを増すために、角材に釘や石が打ち込まれることもあったらしいです。厭な配慮ですね。
……何はともあれ準備は終わり、刑が執行されるとなると、執行人は両手で持った車輪を犠牲者に振り下ろします。破壊する部位の順番には決まりがあって、大腿→膝か脛→腕の骨の順番で砕かれていったそうです。最初に足をやられたら、どうあがいても逃げられなくなってしまいます。
②のタイプの刑では、車輪は処刑台として用いられています。が、中には例外もあり、中世フランスでは車輪ではなく十字型の台が使用されていました。骨を砕く際に用いられるのは棍棒で、「車輪刑」なんてもはや名ばかりです。なんだかおかしいですね。ですが、狐の肉なんて欠片も使われていない、油揚げが乗せられたうどんを「きつねうどん」なんて呼ぶ日本人にはこの刑の名称を非難する権利も資格もありませんので笑わないようにしてあげてください。それに、車輪を使わない車輪刑は、後に「十字架刑」という名称に改められましたので!
①のタイプの車輪刑がフランスに伝わり、行われるようになったのは16世紀ごろ。台座として使われたのは十字架と聞けば真っ先にイメージするタイプではなく、X型の「聖アンデレ十字」。②の処刑台には①のタイプ同様に、骨を砕きやすくするためとに各先端を二箇所くりぬいていました。へこんだ部分を目標にして武器を振り下ろすのです。
この時重要なのが、関節を浮かせないこと。関節が曲げられてしまえば打撃が避けられやすくなりますし、関節にダメージを与えるとそこから手足がちぎれてしまうこともあるので。
実は粉砕までの経緯はあくまで前座。刑の執行後に晒すことこそが重要だったため(※前話と下記参照)、犠牲者の手足はできるだけ残しておく必要があったのですよ。
さて、犠牲者は多大なる苦しみを味わいましたが、犠牲者の名誉はこれからも傷つけられます。車輪刑の第二段階、晒し刑です。
①の場合も②の場合も、刑に使用した車輪にズタボロになった手足をねじったり縛ったりして絡ませ、車軸に太い柱を通して垂直に立てて公衆の面前に晒します。前話で述べたように、車輪刑は古来の太陽信仰と密接なかかわりがあるため、犠牲者の顔を天に向ける、車輪を回るようにする、などの細かな決まりがあったそうです。
手足を痛めつけられている最中に死に至らなかった者は、太陽の熱で炙られ風雨に悩まされ、飢えと渇きに耐えきれずに衰弱死します。が、時には犠牲者を更に苦しめるためにわざわざ食べ物を与えた場合があったとか。また人間の厭らしい側面が出てきましたね。
とっても残酷な車輪刑。ですが、この刑でも僅かながらの慈悲が輝くことがありました。打撃回数を減らしたり、絞首刑や斬首などの苦しみが少ない刑で絶命させてから車輪刑を執行すれば、犠牲者が味わう苦痛はより少なくなります。死体を砕いて車輪で晒しても意味がないように思われるかもしれませんが、死体を放置し名誉を傷つけることもまた重要な罰なのです。
また、最初に頭や胸などに「慈悲の一撃」を見まった上で刑を続行する、という慈悲の表し方もありました。
車輪刑は深淵な意味と由来を持っていたのですね。これで車輪刑のまとめは終わります。
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