第3話 顕現前

「説明は不要だと多くの生徒は思うだろうが......久し振りに参加する生徒が数人居る。『武器顕現』について簡単なおさらいをしておこう」


 担当の先生が、俺を含め皆が並んで座り、向いている方向に立ち、説明を始めた。


「『武器顕現』とは己の胸に眠っている武器聖霊の力を一時的に呼び起こし、自身の体自体を『武器』の姿に進化させることだ。......『武器顕現』に必要な事は三つ。一つは自身が武器になった姿をより詳細に想像すること。これによって、成った『武器』の強度が増し、性能も上がる」


 そう。あくまで俺たちは契約している『武器聖霊』の力を借りて『武器』に進化を遂げる。

 

 『武器聖霊』とは直接的に話すことが出来ないため、『武器顕現』するときは頭の中に自身の武器になった姿を形作ることによって、初めてそこで『武器聖霊』とのコンタクトが取れる。


 『武器聖霊』にとっては自然界より人間の体内の方が居心地が良いという研究結果が挙げられており、基本的に大体が契約主である俺たちに好意的である。


 聖霊たちから見れば、俺たち男の体は居候させてもらっている家みたいなもので、ありがたく思っているとのこと。


 そんな理由もあり、想像さえすれば、聖霊は快く『武器』に成るための力を貸してくれるという寸法だ。

 

にしてもなんで人間の体内が心地が良いんだろ......もしかして細胞とか色んなものが無尽蔵に食い放題だからじゃないだろうな


「二つは力に飲み込まれないこと。聖霊の力は計り知れない。目を瞑り、想像に集中することが重要だ。飲み込まれたら体がそのまま乗っ取られる時もあるが......殆どがその場で死んでしまう。そこには細心の注意を払うことだ」


 先生が言っている通り、ここは細心の注意を払うところだ。


 聖霊は力は貸してくれるが、後はもう放置だ。


 つまり、加減が出来ないということ。


 力を貸してくれるだけでもありがたいのだが、出来れば安全装置みたいなものがほしいものだ。


 聖霊の力を自分で制御して、自分のものにする過程で力を扱いきれずに死んでしまった例が過去にも現在にも多い。


 新聞にも度々記載されるため、結構世間的には男性の死困として有名だ。


「そして三つ。それは『武器聖霊』と共存することだ。度々夢の中に現れる聖霊とちゃんと接触して関係を持っておけ。そうしない限り......新たな力に目覚めることさえ出来ないただの凡庸な『武器』として、半生を送ることになるだろう」


 契約主である俺たちと聖霊たちが普段は話せないかわりに、たまに夢の中で聖霊の方から接触を図ってくるらしい。


 そこで大体が聖霊の性格や目的などを聞き出して、それなりの関係を構築するのだという。


 何故そういうのが必要なのかというと、信頼にある。


 契約主、聖霊どちらか一方、はたまた両方が互いに信頼してなければ、『武器顕現』をするにしても時間がかかってしまうこともあるし、強度や性能だって変わってきてしまうのだ。


そういえば......一度も聖霊には会ったことがないな


 夢で会える。これまでに一度もそこでご対面したことがない俺にとってはなんとも夢物語な話だ。



「よし。説明は以上だな。では次に、今日の『武器顕現』の授業に学園側から選抜された四人の女子生徒を紹介する。全員、体を方向を後ろに向けろ」


 先生の言われた通り、皆は先生に向けていた体を後ろへ向けると、いつの間に立っていたのか、四人の女子生徒が並んでいた。


 パッと見、全員は良いとこ出の令嬢さんのような、リッチな雰囲気を醸し出している。


「今日は出向いてくれて感謝する。右から紹介を始めてくれ」


 背後から先生が指示を飛ばし、横一列に並んでいた女子生徒たちの一番右にいた人から紹介をし始めた。


「───2年近接戦闘クラスのファレア・アトレートです。今日はよろしくお願いします」


 そう丁寧に挨拶したのは、薄紫色の髪を一つに結んだ落ち着いた感じの女の子だ。


 容姿は淑やかで綺麗という言葉が一番当てはまるだろう。


 発育も悪くないし、美少女の部類に入る程だが、近接戦闘クラスを専攻している戦乙女を目指しているような人だ。


 どうせ、外面はああだが内面こんな『武器』の集まりを見下しているのだろう。


「───3年近接戦闘クラスを専攻している、イリシア・オーガストと言うわ。今日はよろしくお願いするわね?」


 柔らかく挨拶したこの人は、容姿も見ているとこちらが落ち着くようなフワフワな感じである。


 ボリュームのあるブロンドで、毛先が内側へ少しカールしている長髪に、包容力抜群な優しそうな姉さんみたいに、ニコニコしている。


 勿論、包容力抜群なのは顔だけではなく、体の方もスゴイことになっている。


 一見優しそうに見えるが、やはりこの人も『武器』である俺たちを内心見下してる気がする。


まぁ......気がするだけだが......



「───3年近接戦闘クラス。レスティヒア・ワスプ」


 無愛想に答えたこの人は、正直いうと俺より年下? と思えちゃうような子供っぽい体型をしている人だ。


 身長は並んでいる女子たちと平均して頭半分低く、その体型にしては発育はまぁまぁだ。


 しかし、容姿に関して言えば他の女子と張り合えるぐらいの端整で可愛らしい顔をしている。


この人は......無愛想な分、何だか裏がなさそう......


「───ふむふむ、最後は私ね。名前はグレシア・ルーベルヴァイン! 3年近接戦闘クラスから来たよっ! 今日はよろしくね~」


 と、他の皆とは対称的に、幾分か増しに元気よく挨拶してくれたこの人は、なんというか......怖くない。


 小栗色のセミロングの髪の右片方を一つ結び上げた可愛らしい印象を受ける髪型だ。


 エメラルドブルーの瞳はくりっとして大きく、自信に満ち溢れた良い顔をしている。


 発育はあの包容力の塊(イリシア先輩)の二番目に良いだろう。それでも、控えめな人は居ない接戦だったけど。


え? 子供体型が居るから接戦ではない? ......言っておくが、あれを世間ではロリ巨乳というのかと内心驚いたほどだぞ? 確かに全員と比べては見劣りするかもしれないが、あの体型にしては寧ろ大き過ぎる。接戦ということにしておこう


 しかし、自分にも呆れたものだ。

 

 こうやって暢気なことを考えてる場合じゃないというのに、何かやっているのか。


 『武器顕現』の授業前にこんな体たらくでは直ぐに落ちこぼれ扱いされて終わりだろうに。






......いや






 もう半ば諦めているからかもしれない。


 事実、こんな面白くもない学園生活なんて直ぐに終わらせて、村に帰りのうのうと酪農している方がずっと良いのだ。


 プライドなんてあってたまるか。


 こんな落ちこぼれ扱いされる、酷く無情な生活よりも......ずっとマシだ

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