第2話 『武器』は決意する
運動場に向かうと、既に皆が二人でペアになって、魔法の実技の課題をこなしていた。
机の中にぶちこまれた馬糞を片付ける羽目になった俺は、当然授業に遅れてしまった。
来たのはいいが、大声で伝えるわけにもいかず、現在かれこれ10分は先生がこちらに気づくまでずっと運動場の脇に綺麗に並列している木々の内の一本に寄りかかって待っていた。
運動場は広く、また多くの生徒を見る先生は、たかが一人くらい来たぐらいで現在危険な魔法を行使している生徒から目を離すことは出来ないという建前を並べて、多分俺だから中々授業に参加させてくれないんだろう。
「......はぁ。さっさと気付けよ」
どうせ俺だからなんだろうけどな。うん。というか、先生が差別は良くないと思いまーす!
愚痴を溢しながら、側にポツンとあった小石を手にとって弄んでいると
「───......っ!?」
刹那、自分に向かって高速で飛来してくる炎の玉。
「くっ......───」
幸い、視界に辛うじてそれが入っていたため、頭を両手で守りながら体をしゃがませて回避は出来たものの、もし死角から来た場合だったら、避けれるかは分からなかった。いや、避けれずに直撃し、今ごろ火だるまになっていたとこだろう。
「な、なんなんだよっ......」
死の恐怖を感じたあと、疲れた訳でもないのに息を荒くさせる。
鼓動が早まっており、「もしさっきに」と、自分が火だるまになるという予測を悪循環してしまう。
マジで危なかったわ......本当に
間違いなく、あれは初級魔法の【火球(ファイアーボール)】だ。
基礎中の基礎で飛翔速度は速いものの、威力は貧弱ではあるが、魔法が不得意で、瞬時に【魔法障壁】を展開できない者にとってその魔法は、まるで『高速に飛来してくる火種』である。
当たった時、それが最後になり、一瞬にして己を火だるまにして灰と化させる。
つまり、俺にとってさっきの状況は『死』という文字が脳裏に過った状況だということだ。
飛んできた方向を凝視すると、あからさまにこちらを見て笑っている三人の男子を見つける。
「またあいつらか......」
良く同じ奴イジメ続けて飽きないもんだな
拳を握り締めながら、尻餅をその場で着いて、ため息をつく。
さっきのことは勿論危険極まりない行為をあちらはしてきた。
だが、現に先生はそれを見ていても、黙認して授業を続けている。
そう、こういうことは良くあることなのだ。
魔法の実技の授業はこういうことが良くあるために、俺みたいな【魔法障壁】を瞬時に展開できない者を先生は出来るだけ参加させたくないのだろう。
それに、俺を取り巻く環境(イジメ)のことは、既に感付いているのだろう。
他の生徒から高確率で魔法を当てられることも考慮しているのだ。
「チッ......」
そういう過剰な配慮で、俺を授業に参加させないのだろう。そう、過剰な配慮で。
あぁイラついてきた。
別にお前らに何もしていないというのに、何で俺をそんなにも日頃の鬱憤の掃き溜めにしようとするのか理解が出来ない。
「───............いや。違う」
別に俺が理解できなくても問題ないのだ。
重要なのは、俺が掃き溜めであることなのだ。
そんな掃き溜めの俺が、何でこのような仕打ちを受けなければならないと理解ができなくても、皆にとっては知ったことではない。
ホント理不尽だなぁ......
思わず苦笑いを浮かべてしまう。
皆の俺への態度がいつも通りのことで何よりである。
多分、この授業には出れないだろうな......
時計を見てみれば、もう後五分くらいで授業が終わろうとしている。
今は五時限目。
「確か次の時間は......【武器顕現】の授業か」
俺の気持ちは、もう六時限目に行っていた。
───俺が落ちこぼれの烙印を押されたのは、ある日の授業が原因だった。
その授業内容は、【武器顕現】。
一定周期に行われ、男子にとっては学園での自分の立場を確認する場として、そして学園側にとっては男子達一人一人の価値を見定める場として、【武器顕現】の授業は成り立っている。
簡単に説明すると、先ず学園側から数人の女子生徒が選抜され、この【武器顕現】の授業に参加させる。
その女子生徒達には、その授業では評価する側として。
そして俺達男子生徒達には、評価される側としてその授業に参加する。
授業内容は至って単純で、一人一人の男子生徒はその場で【武器顕現】して、女子生徒にそれらを使用させて使い心地や性能、そしてその『武器』の特性をその場で評価させるというものだ。
しかし、この授業内容は単純であったとしても、その奥底は単純ではないのだ。
何故なら、その場で女子生徒にされた評価が、そのまま男子生徒の評価になるからである。
人間性、性格、成績、人格一切、容姿一切関係なく、『武器』としての評価が、男子生徒の社会的地位になる。
今の時代、男子は『武器』として生きる他ない。
即ち、この授業で『武器』としての評価に落ちこぼれの烙印を押された俺は学園での地位も最底辺であり、これからもずっと最底辺で生きることになる。
だから、今日の授業で何かが起こらない限り、俺はもうこの学園を出て、実家に戻り、農業に励むつもりだ。
お金を村の皆のために稼ぎたかったのだが、それはもう望み薄だ。
俺は村の皆のために、この身を削る。
「では、今から【武器顕現】測定を開始する」
運動場に、先生の声が響き渡った。
「......」
そんな声を聞き届けながら、緩んだ気を引き締めて、俺は眼前を見据えた。
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