末日(日) あるかす
◆
「最優秀賞。C―3。貴方のホームルームは第二十一回、屋代祭ホームルーム審査において優秀な成績をおさめましたのでここに賞します――――」
その日、ボクはステージで賞状を受け取る幼馴染を見ていた。
ボクが表彰されるのを櫻が見ているケースは中学時代にあったけれど、こうして櫻が表彰されるのをボクが見る立場になるのは初めてのことかもしれない。ましてや屋代という大舞台で、彼がステージの上に立つことになるなんて思いもしなかった。
女子の評議委員は音穏の筈だけれど、櫻の隣にいるのは火水木君。別に代表が男女一人ずつである決まりはないし、誰もが納得する功労者があの二人ということなんだろう。
ただ初めて見ることになる幼馴染の表彰は、それだけで終わらなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
駆けつけたクラスメイトが、櫻を高々と胴上げする。
規模が大きく何かと盛大な屋代学園ではあるものの、三年間過ごしていて胴上げなんて一度も見たことがなかった。
もしかしたら屋代史においてすら、初めてのことかもしれない。
当然ながら見ている生徒の多くは驚きを隠せないようだが、仲間達に称えられている人物を知っているボクにとってはそれ以上の衝撃だ。
――トクン――
本当に驚きでしかない。
何が凄いかと言えば、彼らのクラスが始めはバラバラだったということ。仮にこの結束力が最初からあったなら、一年や二年の時にも表彰されていただろう。
そして胴上げなんて、よっぽどのことでもない限り行われることはない。
この受賞のために、櫻がどれだけ頑張っていたのか。
感謝してもしきれないほどの努力を、クラスメイトの多くが認めている。
その気持ちが行動に現れた結果の胴上げ。
少なくともボクにはそう見えた。
――トクン――
見ているだけではあるけれど、胸に伝わってくるものがある。
まるで夢みたいな話だ。
だってそうだろう?
あそこにいるのは、他でもない米倉櫻なのだから。
陶芸部で一緒に過ごしてきた筈なのに。
同じ授業になった時には、ちゃんと見ていた筈なのに。
ボクの知らない櫻が、そこにいたのだから。
――トクン――
…………何だろう。
不思議と胸が高鳴ってくる。
気がつけばその姿を見て、無意識に笑っている自分がいた。
凄いだろう。
あれがボクの幼馴染なんだ。
今なら誇りを持ってそう言える。
きっと櫻はまだ気付いていないのだろう。
…………既にキミは、充分なくらい恰好よくなっているよ。
「――――といった感じかな。ボクの知らない間に櫻も成長していたみたいで、本当に驚いたよ。まあこれくらいで満足してもらっちゃ困るし、褒めるにはまだまだ早いけれどね」
「…………」
「実際のところ、あれだけ文化祭に力を入れていたなら受験勉強は大幅に遅れが出ているだろうし、正直言ってボクとの約束を守ってくれるかどうか不安ではあるよ」
「…………」
「誤魔化すのはボクらしくないと思って櫻にはちゃんと伝えたけれど、あれで良かったのか今でもたまに考えるんだ。ボクが言いたかったことは、本当に合っていたのかな?」
「…………」
「………………いや、やっぱり今はそのことを考えるのはやめておこうか。それにしても最近は櫻のことを話してばかりだね」
「…………」
「別にボクも意識しているつもりはないんだよ。ただふとした時に、気付くとつい櫻のことを考えているんだ。やっぱり櫻のことが心配なのかな」
「…………」
「人を気にかける暇があるなら、まず自分のことをどうにかすべきなのにね」
「…………」
「……………………本当、キミは櫻にそっくりだよ」
「…………」
「ボクはどうすればいいんだろうね。アルカス、教えてくれないかい?」
「…………にゃーん」
「………………うん。ありがとう。今日はもう遅いし、そろそろ寝ようか」
「…………」
「おやすみ。アルカス」
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