五日目(土) 俺とアキトの下準備だった件
「すいません。こちらでダンボールっていただけたりしますか?」
合宿が終わり二日間の休息を挟んだ土曜日。俺は父さんに頼んで車を出してもらい、地元付近や通学路の途中にあるスーパーとホームセンターを片っ端から回っていた。
その理由は文化祭で必要になる驚異的な量のダンボールを集めるため。先程立ち寄ったスーパーは業者による回収が既に行われた後であり今一つだったが、ここは当たりで中々の量を手に入れることができた。
「よっと。それじゃあ屋代までお願い」
父さんに手伝ってもらいつつ車に運び終えた俺は助手席に座り、シートベルトを締めた後で後部座席を確認。既に人が座れるスペースなんて一切ない状態になり、山積みになったダンボールは車内の天井近くにまでに届いている。
何の役にも立っていないルームミラーを見て大丈夫なのか尋ねたところ、幸いにもルームミラーには保安基準がないらしい。このままでも運転は問題ないと聞いて、とりあえずホッと胸を撫で下ろした。
「これで足りそうか?」
「んー、微妙。でも足りなかったら、後は俺達で集めるからいいよ」
話をしながら携帯を取り出し、現地で待つ親友に『五分くらいで着く』とメールを送信。すると一分も経たずに『おk把握』という返事が届いた。
「こんなにダンボールを集めて、何やるんだ?」
「んー、何て言えばいいんだろ? まあ滑り台とかお化け屋敷とか、色々」
「お化け屋敷っていうとあれか? またオカマが出るのか?」
「出な……いや、出るんだった。お化け屋敷とは別にオカマの出番があるよ」
「ほー。櫻もやるのか?」
「やらないって」
俺にできることはどんなことでもやるつもりだが、それだけは断固拒否だ。
文化祭の話をしながらふと思ったが、こうして父さんと二人で話すのは久し振りな気がする。母親と違ってお互いにマイペースな性格というのもあるが、やはり何だかんだで教師という職業柄、仕事が忙しいというのが大きい。
平日は朝早くに家を出て夜遅くに帰宅し、休日も仕事で学校へ赴くことが多い父親の背中を見ていると、自分が将来先生になれるか少し不安になってくる。
「学校は楽しいか?」
「それなりには楽しんでるかな」
「そうか。ほら、あの……夢田さんだったか?」
「夢野ね」
「そうそう。その夢野さんとはどうなったんだ?」
「別にどうにもなってないけど、来週の金曜に家へ遊びに行くよ」
「お? デートか? 何だかんだ順調にやってるんだな」
「ただの勉強会だって……と、そこ曲がって中まで入ってくれる?」
「いいのか?」
「大丈夫。それでそこを左に曲がって。多分アキトの奴が待って……あ、いたいた」
屋代へ到着すると校門から中へ進み、Cハウスの傍まで寄せてもらう。
既に教室へ運ぶ準備は万端らしく、そこには台車を用意して待っている相棒がいた。
「オッスオッス。乙です」
「大量だぞ」
「山積みキタコレ」
父さんにペコリと頭を下げて挨拶したアキトと共に、運ぶのは後に回してひとまず車からダンボールを下ろしていく。やがて後部座席がスッキリ元通りに戻ると、貴重な休日を割いて手伝ってくれた父上は静かに去っていった。
その後で俺達は乱雑しているダンボールを台車に載せていく。一度では運び切れない量だったため何度かに分けて往復を繰り返し、ようやく全てを教室へと運び終えた。
教室の中はアキトがやってくれたのか、作業がしやすいように机が後方へまとめられている。ただし今日はまだ事前準備段階であるため、アキト以外は誰も呼んでいない。
「うし。とりあえず順番に作業の確認をしていくか」
「了解だお」
「まずは一番時間が掛かりそうな壁関係だな。必要なサイズは全部表にしてまとめておいたから、とにかくこれに従ってダンボールを切ったり貼ったりしまくる」
「ファッ!? 一体いつの間にこんな物を……?」
「俺はアキトと違って、こういうことしかできないからさ」
「それにしてもこの米倉氏、ジェバンニである」
「一晩でやった訳じゃないし、前にお前と調べたのを整理しただけだっての」
最初こそ縦に2m、横に1kmという驚異的な数字だったものの、流石にそれは厳しいということでカットできる箇所をアキトと相談。森の屋根部分など色々と失くした結果、縦2mの横300m程にまで削減することができた。
しかしながら削減したといっても、その壁の枚数は合計にして約五十枚。しかも単に寸法通りに作るだけではなく、完成した後で装飾を行う必要がある。
「壁ができたら、その上にのりでA3用紙を貼りつけていく。大半が緑色の紙を貼る感じだけど、カラー用紙っていくらぐらいするんだろうな」
「大体100枚で600円くらいだった希ガス」
「マジか。ちょっと予算を使うことになるけど、まあ仕方ないな。とりあえず最優先で作る壁は、スタート直後にある三つのドアの両脇だ。この六枚は絵を描いて貰う必要があるから、早目に仕上げるぞ」
「おk把握」
「そんでもって問題は、ロープでぶら下げていけるかどうかだな……」
本来は積み上げて並べた机に完成した壁を縛り付ける予定だったが、当然ながら186台の申請は却下。文化祭実行委員に書類を出して許可が下りたのは僅か15台であり、俺達が使える机の数は元々C―3にある40台と加えても55台しかない。
そのため代案としてアキトが考えたのが、壁を吊るすという作戦。これに関しては若干心配ではあるが、アキトのアイデアだし上手くいくと信じて今は保留しておこう。
「ドアそのものに関しては、お前に任せていいんだよな?」
「そのものというか、主にドア枠ですな。トンネルと回転ドア部分も含めて、木材を買ってちゃちゃっと作るお。道具は我が家にありますし、そんなに予算は使わないかと思われ」
「了解だ。次は滑り台だけど、これは陶芸部にある椅子を後で持ってくるから段差上に縛って階段部分はオッケー。滑る部分もそこにある教壇二つ分を繋げて完成と」
「陶芸室の椅子は使って問題ないので?」
「文化祭で陶芸室は使わないからそのままの状態だし、伊東先生から許可も貰ったから大丈夫だ」
「これは比較的早い段階で作れそうだお」
「だな。着地点のクッションは丸めた新聞紙を青色の紙で包んで、それを大量に用意する感じだ。暇してる奴がいたらやらせる作業でいいと思う……と、青も必要だったか」
買い物リストに書き忘れていたため、青色のカラー用紙をメモしておく。本当にこの調子で一万円以内に収めることができるのか、だんだん不安になってきた。
「オカマゾーンは何とでもなるから後回しだ。折り返しのトンネルを抜けたらC―3に入って、ペシャ猫に関しては……どうやって作るかだな」
「新聞紙が無難な希ガス」
「んー、まあとりあえずその案で保留しておくか。それで回転ドアをくぐった後は、お化け屋敷ゾーンでおしまいと。何か気になるところは?」
「これといってないかと思われ。ダイオードは安いですしおすし、トンネルでの分が余ったらラスト周辺でも使えると思うお」
「了解だ。それじゃあ、とりあえず買いに行くか」
俺達は一旦教室を出ると駐輪場へ向かう。俺は終業式の日に自転車を置きっぱなしにしており、電車通学のアキトは店長に手配しておいたらしく駐輪場には見慣れない自転車が用意されていた。もう屋代を卒業したっていうのに、本当に何でも屋だな。
相変わらず日差しが強く気温も高い中、親友と共に向かったのは最寄りのホームセンター。そこでロープやガムテープ、ダイオード、A3用紙類と買い物リストにメモしていた物を籠へ入れていく。
「カラー用紙は500枚で2000円か。必要な量が縦225cmの横4030cmだから……906750㎠。一枚が297mm×420mmで……1247.4㎠ってことは割ると…………大体726枚だな。これだけで4000円近く掛かるのか」
「仕方ないかと思われ。そしてこれもあった方がよいかと」
「スプレーのり……? 普通ののりじゃ駄目なのか?」
「4000㎡近くあるダンボールに貼り付けることを考えると、中々に手間なのでは?」
「まあお前が言うなら……」
値段がそこそこ高いので戸惑いはしたものの、その辺りの事情に詳しいアキトの言葉を信じて購入。その後もカーテンや壁紙等、使えたら良いと思う物は多々あったが予算を考えて今回は見送ることにした。
最後に回ったのは、俺一人なら足を踏み入れることのない資材の並ぶコーナー。アキトはアキトで、任されていたドアやトンネル関係の設計図をしっかり作っていたようだ。
「大体こんなもんか」
「そうですな」
細長い木材を何本か購入してから、傍にある工作室にてスタッフに頼み必要な長さに切断してもらい買い物は終了。予算以内には無事に収まったし、明後日からは本格的な作業の始まりだ。
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