二日目(水) 先輩は後輩が心配だった件

「ユメノンってば、見ないうちに胸が大きくなったわね」

「きゃっ? ちょっとミズキ、どこ触ってるの?」

「女同士なんだし、少しくらいならいいじゃない。うりうりー」

「ちょっ……んっ! やめっ…………あっ――――」






「――――みたいなことが、女子風呂で起こってたりしたんスかねー?」

「お前、レズは嫌いなんじゃなかったか?」

「ガチレズは勘弁ッスけど、こういう馴れ合い的なのはバッチこいッス! あー、オレも一度でいいから、思いっきり本物のおっぱい揉んでみたいッスねー」

「陶芸部の握力で思いっきり揉んだら、ヤバいことになりそうだな」

「いやどんだけ強く揉む気ッスかっ?」


 朝一番の誰もいない浴場で、欲情した後輩がアホなことをぬかす。仮に女子風呂と繋がってたら、間違いなく覗こうとか提案しただろうなコイツ。

 ちなみに朝風呂を浴びていた理由は、相変わらずテツの歯ぎしりが酷く早朝に目が覚めたため。しかしながら俺のせいでテツも起きてしまったらしく、こうして二人で裸の付き合いをしている訳だ。


「ネック先輩って、本当ムッツリッスよねー。最初は夜這に行くのかと期待したッス」

「時間的には夜這っていうより朝這だな」

「男同士で裸同士なんですし、もっとお互いに妄想を垂れ流していきましょうよ!」

「妄想か……多分女子風呂で火水木はお前と同じようなことを考えてたと思うぞ?」






「テツ……お前、思ったよりチンコでかいな……」

「そんなことないッスよ。ネック先輩だって大きいじゃないッスか」

「どうだ? そいつを俺の…………アッー!」






「ヴォエ…………何てこと言うんスか……危うく吐血するところだったッス……」

「これに懲りたら、少しは自重しろ。お前の妄想は生々し過ぎるんだっての。もっとこうラッキースケベみたいな感じの、ライトなやつなら話にも乗るんだけどな」

「ラッキースケベは起こるものじゃなくて、起こすものッスよ!」

「ただの犯罪じゃねーかそれ!」


 シャンプーを泡立てた頭を洗い流しながら、一年経っても何一つ変わらない後輩に苦笑いを浮かべる。それでもコイツのお陰で今年の合宿も楽しかったし、感謝はしておこう。


「それこそ卓球とかできる旅館だったら良かったんスけどねー。先輩達の浴衣がラケットを振る度に徐々にはだけていって、スマッシュと同時にブラがチラッと」

「そうそう。その程度の妄想ならいいんだよ」

「そんでもってボールをポロリした時に、うっかりミズキ先輩のおっぱいもポロリと。そんでもってオレのチンコもついでにポロリと」

「おまわりさーん。コイツが未来の犯罪者でーす」

「何でッスかっ? ポロリも駄目なんスかっ?」

「ついでにポロリって何だよっ!」


 ジャブ、ジャブときてストレートからのアッパーなら良いが、コイツの場合はアッパー、オッパー、オッパイな件。もっとこう、太股とかうなじがチラチラ見えるのが良いとか、うっかりボールが浴衣の中に入るハプニングとか色々あるだろ。

 今年は来なかったものの来年になって男子が入部した場合、その新入部員は歯ぎしりなり変態な会話に付き合わされて、さぞ苦労することになりそうだ。


「ネック先輩。今年の合宿、楽しんでもらえました?」

「ん? 何だよ唐突に」

「ミズキ先輩を真似して色々と企画してみたッスけど、微妙だったかなーって。ネック先輩は肝試しのパートナーもよりによってメッチでしたし、退屈じゃなかったッスか?」

「そんなことないっての。肝試しはまあ色々と大変だったけど、それでも楽しかったぞ」

「そうッスか? もっとエロい展開とか期待してたんじゃないんスか? 箱の中身を当てるゲームとかやって、女子陣の嫌そうな顔とか見たかったんじゃないんスか?」

「お前は俺を一体どういう目で見てるんだよ? ってか箱の中身を当てるゲームって、また何かと悪だくみを考えてそうな企画が出てきたな……」

「大丈夫ッスよ。オレのチンコを箱の中に入れるとか、そういうことはしないッスから」

「アウトォ! どういう発想してんだお前はっ?」

「いやいや、定番じゃないッスか」


 一体どこの世界の定番なのか……どうやら俺とコイツは生きている世界が違うらしい。

 俺達の引退後に陶芸部が……というより、望ちゃんが大丈夫なのか不安で仕方ない。早乙女以外にもう一人くらい、コイツを止められるボディガードが欲しいところだな。


「いやー、川で遊んでた時も誰かしらうっかり転んだりして、濡れた服が透け透けになったりしないか期待したんスけど、中々思うようにはいかないッスねー」

「お前の思い通りにいったら放送禁止だっての。来年の合宿ができなくなるぞ?」

「あー、それは困るッス。こんなに楽しい部活、他にはないッスからね」


 確かにその通りだ。

 約二年間に渡る部活動……仲間達と過ごす日々は、本当に最高だった。

 毎日のようにやっていたトランプやウノ。

 たたら板と長机を使って無理矢理遊んだ卓球。

 コスプレや人生ゲームを楽しんだハロウィン。

 プレゼント交換や闇鍋で盛り上がったクリスマス。

 ネズミースカイやスポッチへ遊びに行ったこともあった。

 そんな色々な思い出に浸っていた俺は、少ししてから口を開く。


「…………なあテツ」

「何ッスか?」

「文化祭が終わったら、俺達三年は引退だ。部員が三人になって寂しくなるだろうし、男はお前一人だから力仕事とかも大変だけど、これからも盛り上げ役は頼んだぞ」

「うッス!」

「それと盛り上げるのはいいけど、性欲と下ネタは程々に抑えておけよ? 俺達がOBとして戻ってきた時に、廃部とかになってたら嫌だからな?」

「大丈夫ッスよ! オレに任せておいてください!」


 厚い胸板をドンと叩く後輩に、小さく笑みを浮かべる。これでエロ丸出しなところと夜の歯ぎしりさえなければ、ムードメーカー的存在として良い奴なんだけどな。


「さて、最終日も頑張っていくか!」

「了解ッス!」


 しんみりとした気持ちを切り替え、俺達は風呂から上がる。

 部員全員でのラジオ体操に始まり、朝食を取ってから工房へ移動し削り作業。高校生活最後に行ったろくろ成形は本当に楽しく、そして寂しくも感じるのだった。

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