末日(月) 俺の幼馴染の告白だった件

 受験……それは人生において大きな分岐点であり、数少ない自分との戦いだ。

 高校受験は多くの学生にとって最初の壁となり、大学受験は多くの学生にとって最後の受験になる。

 全てが終わった時には懐かしく感じる道のりも、走っている最中は地獄でしかない。

 そして俺達はまだ、その道を走り始めたばかりだった。


「よう」

「やあ」


 今日が終われば再び三連休になるという、ゴールデンウィーク間の微妙な登校日。連休前と変わることなく、家を出ると門扉の前には阿久津が待っていた。


「足の調子はどうだい?」

「問題なし。今日の抜糸が終わって大丈夫そうなら、金曜からは元通り自転車の予定だ」

「そうかい。それは何よりだね」

「ああ。電車通学の間、わざわざ付き合ってくれてサンキューな」

「気にする必要はないよ」


 こうして阿久津と一緒に登校するのも、今日が最終日かもしれない。

 相変わらず歩調を合わせてくれている幼馴染に感謝しつつ、俺達は駅へと向かう。


「ゴールデンウィークも折り返しだな」

「そうだね」

「お前のことだから、やっぱりもう課題は終わってたりするのか?」

「いいや、まだだよ」

「へー。意外だな。こっちは梅の奴がヤバそうでさ」

「そうかい」

「ああ。アイツ高校の勉強を完全に舐めててさ。あれは絶対に最終日に地獄をみるやつだって」

「確かに、そうかもしれないね」

「…………」

「………………」

「予備校の休みの日とか、気分転換にどこか行ったりしたのか?」

「いいや。家にいたよ」

「やっぱり学校の課題に加えて、予備校の宿題とかもあると息を抜く暇もないのか?」

「そうだね」

「マジでか。大変だな。俺も見習わないと…………でもこうやって勉強ばっかりしてると、不思議と物凄く陶芸をやりたくなってくるよな」

「そうだね」


 …………何故だろう。今日は話が広がらない。

 最初に足の心配こそされたものの、阿久津から話しかけられたのはそれだけだ。

 今までは何かと話しかけてきたし、俺から話題を提供した場合でもしっかりと会話のキャッチボールをしていたが、今はボールが返ってこない。


「なあ阿久津。どこか体調でも悪いのか?」

「どうしてだい?」

「いや、何か元気なさそうだからさ」

「少し考え事をしているだけだよ」

「そうか」


 体調ではなく機嫌が悪かったらどうしようかと思ったが、そんなことはなかったようだ。

 しかしこんな調子では連休前に話していた心理テストの答えなんて聞ける空気じゃないし、昨日の夕方に夢野が俺の家へ来ていたのを見ていたのかも質問しにくい。


「何か悩みか? 俺でいいなら相談に乗るぞ?」


 考え事となると、やはり予備校関係だろうか。

 阿久津が俺に相談なんてする訳がないと理解していながらも、いつもみたいに軽口の一つでも言ってもらわなければこちらも調子が狂うため、サムズアップしながら尋ねてみる。


「…………大きな悩みは二つあるんだけれど、そのうちの一つは星華君と音穏が相談に乗ってくれていてね。もう一つの方は……キミの意見を聞いてみたいかな」

「お? 何だ何だ?」


 返された意外な反応に、思わず身を乗り出す。

 あの阿久津が俺に意見を聞くなんて、こんなことは二度とないかもしれない。溜まりに溜まった借りを返すチャンスが、ようやく到来したという感じだ。

 この時は、呑気にそう思っていた。

 浮かない表情をしていた少女の口から、予想だにしない言葉が発せられるまでは……。






「――――仮にもしボクが櫻のことを好きだと言ったら、キミは今でもまだボクのことを好きになってくれるかい?」

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