三日目(金) 展望デッキの夜景も絶景だった件
「明釷ー。櫻ー。皆で飯行こうって話があるんだけど、お前らこの後って空いてるか?」
空港のロビーで解散式が行われ、家に帰るまでが修学旅行と言われたばかりにも拘わらずクラスメイトから声を掛けられる。まあ解散場所が空港かつ丁度お腹が空く時間帯とくれば、真っ直ぐ帰らずにその手のことを考える輩は他にもいそうだ。
「悪い。ちょっと用事があってさ」
「マジかー。用事なら仕方ないな。明釷はどうだ?」
「問題ないお」
「オッケー。おーい、葵ー」
用事について詮索することもなく、陽キャな友人は葵や渡辺達といった他の連中の元へ向かう。ウチのクラスはつるんでいるメンツこそイケメン勢と陰キャ勢に分かれているものの、全体の雰囲気は悪くなく比較的平和だ。
「米倉氏、グッドラック!」
「おう。色々と調べてくれてサンキューな」
アキトと共に誘いに乗ることはなく、俺は親友に別れを告げる。
一人で向かった先は、アキトが事前に調べておいてくれた良い感じの場所。飛行機の離着陸や綺麗な夜景が見えるという、空港の展望デッキだった。
「おお……」
足元に点滅するLEDライトが散りばめられた幻想的な空間。画像は見せて貰っていたものの、実際に行ってみると予想以上の光景に驚かされる。
そして滑走路の方を見れば誘導灯がイルミネーションのように光っており、スカイツリーは勿論のこと東京タワーやレインボーブリッジまで見えるロマンチックな夜景が広がっていた。
「…………」
周囲にはカップルの他に、夜景を撮影しようとカメラを構えているおじさんもいる。屋代の生徒も何人か見掛けはしたものの、今の時間はまだあまり人が多くない。
とりあえず連絡を取ろうと携帯を取り出したところ、タイミングよく夢野からメールを受信。むこうも展望デッキに到着してこちらを探しているとのことだ。
「!」
薄暗い周囲を見渡すと、大きな荷物を抱えたポニーテールの少女を見つける。
人違いの可能性を考慮して、横から覗きこむように顔を確認した。
「…………あ!」
「よう」
携帯の画面を眺めていた夢野は、俺に気付くと嬉しそうに微笑む。
見慣れた制服姿ではあるものの、綺麗な夜景をバックにした少女は実に絵になっていた。
「わざわざ来てもらってゴメンな」
「ううん。こんなに綺麗な所があるなんて知らなかったから、寧ろ来て良かったかも」
「そう言ってもらえて何よりだ。ちょっと向こうの方に行ってみるか」
「うん」
座って話すことのできるブースもあるが、俺と夢野は展望デッキの探検がてら人の少ない方へと移動する。
人工的な照明が強過ぎるせいで空を見上げても星はあまり見えないが、この夜景は沖縄の星空とはまた違った意味で良い。
「伊東先生へのお土産は何にしたんだ?」
「色々悩んだんだけど、最終的にはコーヒーにしたの。珊瑚で焙煎されたコーヒーっていうのがあったから、沖縄っぽいし良いかなって」
「コーヒーなら準備室とか職員室で見掛けた際にも飲んでるし、良いんじゃないか?」
「本当? 良かった。ミズキは最初お酒にしようって言ってたんだけどね」
「流石は夢野。ナイス判断だな」
「米倉君達はクロガネ君のお土産、何を選んだの?」
「これくらいの、小さいシーサーの置き物だよ」
「もしかしたらそれ、私が見たのと同じだったりして。望のお土産にしようか考えてた可愛いシーサーがあったんだけど、結局沖縄の合格グッズにしちゃった」
「夢野は優しいな。ウチなんて本人のリクエストがパイナップルチョコちんすこうだぞ」
「ふふ。梅ちゃんらしいかも」
ちなみにこのパイナップルチョコちんすこう、どこから仕入れた情報か知らないが試食してみたらこれがまた美味いのなんの。普通のちんすこうはあまり口に合わない俺でも、ネズミーのチョコクランチに似ている食感でストライクだった。
一緒にいた冬雪と如月にも好評で、二人とも家族への土産に購入。今になって思うとテツへの土産もこれにしておけば、一つくらい摘み食いできたかもしれないな。
「そういえば、水族館はどうだったの?」
「思ってた以上に凄くて驚いたよ。こう、映画のスクリーンくらい滅茶苦茶でっかい水槽があったんだけど、ジンベエザメとかが泳いでて――――」
俺は自分が見た水中の世界や、深海のプラネタリウムについて話す。
文化祭で火水木のバンドを阿久津へ説明した時同様に、やはり言葉だけでは上手く伝わらないが、真摯に話を聞いてくれていた夢野は首を傾げつつ尋ねてきた。
「写真とかは撮らなかったの?」
「携帯はこれだし、デジカメ借りるのも面倒だったからな。それに思い出は写真に撮って残すよりも、心に刻む派なんだよ」
「えー? 思い出は共有しないと! 米倉君が感動した水族館の景色、見たかったなー」
「まあ俺が写真を撮らなくても大抵は他の奴が撮ってるからさ。水族館だってアキトとか阿久津が山ほど撮ってたみたいだし、言えば見せて貰えると思うぞ?」
「え? 水無ちゃんと一緒だったの?」
「ああ。入口で偶然会ったんだよ。ヒトデの口の位置とか水族館の見どころとか、事前に色々調べてたみたいだったから付いて行ったんだけどさ」
「…………」
「ん?」
話している途中、人気も少なくなってきたところで不意に少女が足を止める。
どうしたのかと思い振り返ると、夢野は唐突に俺の腕へギュッと抱きついてきた。
「!?」
幸か不幸か、制服の生地が厚過ぎるため胸が当たっている感触はあまりない。
視線をやや下げてみると、そこには珍しく頬をぷくーっと膨らませながら不満そうにこちらを見上げている夢野がいた。
「水無ちゃんだけずるい!」
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