三日目(金) さらば沖縄めんそーれだった件
アキトや川村がガラス工芸館で売られている色鮮やかなグラスをお土産に選ぶ中、食器なら陶器で作れば良いと判断して買わない俺。何だかんだで知らない間に、すっかり陶芸部らしい思考が染み付いていたようだ。
ここまで行動を共にしていた阿久津達とも別れ、お昼には沖縄そばを食べる。その後も道端に生えているヤシの木を眺めながら、バスに揺られて色々な所を観光した。
そんな楽しかった旅も終わりが近づき、最後の目的地である国際通りに到着。約1.6㎞近い繁華街を最初は五人でのんびり歩いていたが、気が付けばアキトと川村は二人でどこかへ行き、如月は店の前で写真を撮っているため今は冬雪と二人きりだ。
「んー、テツのお土産に良さそうな物あったか?」
「……悩み中」
先程までハリネズミカフェの看板を見つけるなり、入りたそうにジーっと眺めていた冬雪は首を横に振る。
家族には元祖紅いもタルトなりパイナップルチョコちんすこうといった沖縄名物を購入する中、後輩へのお土産は未だにピンとくる物が見当たらない。
「確かアイツって辛い物が好きって言ってた気がするし、こんなのなんてどうだ? 向こうに帰った後もこれ一つあれば沖縄の味が楽しめる、島とうがらし!」
「……却下」
「駄目か。いい線いってると思ったんだけどな。じゃあこっちなんてどうだ? 第5回全国47都道府県代表おやつランキング準グランプリ受賞! とろなまマンゴープリン!」
「……食べ物より、形に残る物がいい」
テツの性格を考えると花より団子の方が良さそうな気がするが……しかもプリンの方に至っては、名前からしてあの脳内ピンクな後輩にはピッタリだと思うんだけどな。
やはりこの手のお土産もプレゼント同様にセンスが問われるため、正直言って俺の得意な部類ではない。だからといって冬雪も決断力に欠けていたりする。
「いっそアイツに何が良いか聞いてみるか?」
「……(コクリ)」
南国ならではの植物エキスをたっぷり配合し、美容効果も期待できる……なんて謳い文句が書かれた、シーサー型の美容マスクを眺めていた冬雪は黙って首を縦に振った。
俺は携帯を取り出すと、パパッとテツにメールを送る。
『お土産を買ってるんだが、何か欲しい物とかあるか?』
――――ヴヴヴヴヴ……ヴヴヴヴヴ――――
『沖縄名物ゴーヤコンドームが欲しいッス!』
「…………」
「……返事きた?」
「ああ。沖縄名物なら何でもいいってよ」
俺は『来年に自分で買え』と返信しつつ答える。アイツの修学旅行の行き先が沖縄になるかは知ったこっちゃないが、そんな物をお土産に買えるかっての。
「そうだな……阿久津は早乙女のお土産に何を選んだかとかって聞いたか?」
「……聞いてみる」
冬雪はスマホを指でなぞりつつ答える。その一方で俺の携帯にはテツから『ゴーヤコンドームが駄目なら、別に何でもいいッスよ』と予想通りのメールが届いていた。
夢野達にも聞いてみるべきかと思ったが、向こうは土産を渡す相手が伊東先生のため参考にならないかもしれない。やはり後輩への土産という点で同じ阿久津に聞くのが無難だろう。
「……これだって」
「ん? 何だこれ?」
「……ケーブルバイト」
「ああ、あれな。ケーブルバイト。200㎏を超える握力から繰り出される必殺技だろ?」
「……違う。ここの部分に付けるマスコット」
冬雪の説明を聞いた限り、どうやらケーブルバイトとはスマホ用品の一つ。充電ケーブルの接続部分が断線してしまうのを防ぐ、ちょっとしたアクセサリーらしい。
阿久津は沖縄の守り神であるシーサーのケーブルバイトを買った様子。まあ恐らくどんな物を選ぼうと、阿久津からのお土産と聞けば早乙女は喜ぶこと間違いなしだろう。
「あれ? 何か画面消えたんだけど、これどうすればいいんだ?」
未だにスマホ慣れしていない俺が助けを求めると、冬雪は俺が手にしていたスマホの画面をタッチする。その際に判定がタップではなくスライドになったらしく、表示されていたシーサーのケーブルバイトから画像が切り替わった。
「……」
「…………」
「………………冬雪さん?」
「……何?」
「これは何でしょうか?」
「……写真」
「そんなことは見たらわかる。問題はこれを誰が撮ったかだ」
スライドしたことにより表示された写真は、俺と阿久津が水族館で水槽を眺めているツーショット。恐らくは『深海への旅』だと思われるが、ここで写真を撮られた覚えはない。
「……楽しそうだったから、こう、パシャリ」
「パシャリ……じゃねーし! 犯人はお前かっ?」
「……撮ったのはミナの友達」
「傍にいたのかよっ? 勝手に盗撮すんなって!」
「……それを送って貰って、私がミナに送っておいた」
「何してくれてんのっ?」
つまりはこの画像が阿久津の元にも届いているということになる。相変わらず写真写りが悪い俺の……と思ったが、改めて見ると案外そうでもなかった。
「……ヨネもミナも、楽しそうで何より」
「ほほう。そうかそうか。それなら俺にも考えがあるぞ」
「……?」
「ちょっとこっちに来なさい……おーい、如月ー」
俺は冬雪の手首を掴み店の外へ出ると、写真を撮っていた如月の元へ向かう。
目には目を。歯には歯を。写真には写真をだ。
「ちょっとスマホ貸してくれないか? 俺も撮りたい写真があるんだ」
「(コクコク)」
「サンキュー。これ、連写モードとかってできるか?」
「……っ」
「おっと、逃がさんぞ冬雪。さあ、楽しい楽しい思い出作りをしようじゃないか」
写真を撮られるということがどういうことか、その身を以て味わうがいい。
――十分後――
「オッスオッス。やっと合流できましたな。おや? 冬雪氏、どうかしたので?」
「……ヨネに酷いことされた」
「ブッフォ! まさかの事案発生っ?」
先に酷いことをされたのは俺なんだが、これで少しは懲りただろう。
ちなみに悩みに悩んだ末、テツへのお土産はシーサーの置物という何とも無難な結果に。ぶっちゃけ錬金術師ならぬ錬土術師の冬雪なら、これくらい粘土で作れそうだけどな。
「そういやアキト、お前モノレールは大丈夫なのか?」
「ダメデスガナニカ?」
「うぉいっ? 飛行機ですらアレだったのに、どうすんだよ?」
「ソノタメノガチャダオ」
空港へ戻るためのモノレール乗り場を前にして、またもや壊れ始めるアキト。まだ口調こそ維持できているが、その手は暴走するミシンのようにスマホをタップしている。
不安になりつつモノレールに乗ると、気を紛らわせるためのガチャ作戦が功を奏したのか運良くお目当てだったバレンタイン仕様のヨンヨンが手に入った模様。まあそんな精神状態じゃ物欲センサーも働かないだろうし、災い転じて福となすってところだろう。
「飛行機に乗ったらもう修学旅行も終わりか。何かあっという間だったな」
「……またいつか来たい」
「(コクコク)」
「次に来る時は船旅がいいお」
この三日間で一体何枚撮ったのか、綺麗な海に沈み始める夕陽をアキトが撮影。空港で別れの『めんそーれ』を見た俺達は、楽しかった沖縄の地から飛び立つ。
一日歩き回って予想以上に疲れていたのか、帰りの飛行機はぐっすり就寝。今回はアキトも眠れたようで、偏西風の影響もあり乗っていた時間は行きより短かった。
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