八日目(水) 階段が怪談だった件
「実はアタシ霊感あるみたいで……さっきからそこで立ってるのが見えるのよ……」
「ああ、茶柱の話だね」
「ちょっとツッキー……って嘘っ? 本当に立ってるっ?」
「部屋に来た時から立っていたけれど、見てなかったのかい?」
「あれはオレがSNSで、自撮りの画像をあげ――――」
「あー、もういいわ。何となくオチ読めたから」
「そりゃないッスよ! 変な奴に付き纏われてマジで怖かったんスよっ?」
「加工もせずに自分の写真をネットに載せるなんてアホでぃすね」
「もしもし? ボクはメリーさん。今は星華君の……」
「後ろにいるんでぃすかっ?」
「かかったね? 後ろは囮のメリーさんさ。本物は上だよ」
「どこのバトルものよっ?」
結局その後も大して怖い話が出ることはなく、後半に至っては電話を取って貰えなかったり道に迷ってたりするメリーさんのネタ話で盛り上がって怪談は終了した。
これから肝試しを始めるとは思えないほど賑やかなまま外へ出ると、俺達が部屋に集まって怪談(仮)をしていたことを知らなかったらしい伊東先生と合流する。
「そういうことでしたら、先生も参加したかったですねえ」
「最初はアタシだけが話す予定だったから……ってイトセン、何か怖い話知ってるの?」
「ご期待に添えるか分かりませんが、先生が昔友人と心霊スポットへ度胸試しに行った時の話がありますよ」
「どこに行ったんスか?」
「二階建ての廃屋だったんですが、何でも女性が亡くなったとか。もっとも二階へ上る唯一の階段はボロボロに壊れていたので、現場である二階には行けませんでしたけど」
「それでそれで、何かあったの?」
「はい……実は、心霊現象が起きたんですよ」
「「「!」」」
「ドアが何度も激しくバンバンと開閉されたり、上の階からドンドンと足音が聞こえたり……後は呻き声のようなものが聞こえて、先生怖くてすぐ逃げちゃいました」
「うわっ! それマジでヤバいやつじゃないッスか!」
「…………と、ここで終われば怖い話だったんですけどねえ。実は種明かしをすると、心霊現象は先回りした友人の悪戯だったそうなんですよ」
「何でそれを言っちゃうのよ! 今良い感じだったじゃない!」
「そ、そんなことだろうと思ってました。幽霊の正体なんてその程度でぃす」
一瞬顔を引きつらせていた夢野、冬雪、早乙女の三人がホッと胸を撫で下ろす。
しかし今の話、何か違和感があるような……気のせいか?
「さて、それでは肝試しといきましょうかねえ。先生、折り返し地点に目印を置いた後で脅かし役として待機しますので、皆さんは二人組を作ったら順番に来てください」
一体何を持っているのか、怪しげな紙袋を手にした先生は鼻歌交じりに肝試しコースへと去っていく。心なしかあの人が一番楽しそうに見えなくもない。
「それじゃあグッチョッパで分かれるわよ。三人ペアになったところはジャンケンして、負けた一人が残った二人と一回ずつ行くってことで――――」
「ちょっと待って欲しいッス!」
「何よトール?」
「肝試しと言ったら男女のペアじゃないッスか! だからここは俺とネック先輩がグーパーで別れて、女性陣もグーパーで別れてペアを作るべきッス」
「それだと米倉君と鉄君が何回も行くことになっちゃうけど、いいの?」
「全然余裕ッスよ! ね? ネック先輩」
「ん? ああ、俺は別に……」
正直同じことを思ってはいたが、あえてどちらでも良いといった雰囲気で言葉を返す。火水木といいテツといい、自分の欲求を遠慮なく口にできる奴って本当に凄いよな。
しかしこのまますんなり決まるかといえば、そんなことはなかった。
「異議ありでぃす!」
…………ああ、コイツがいたっけな。
男女ペアで喜ぶ訳がない早乙女が声をあげると、夢野と火水木もこれに賛同する。
「そうだね。肝試しだからって、男女にこだわる必要はないかも」
「トールの言いたいこともわかるけど、アタシとしては女子同士の肝試しも楽しみたいのよねー。ユッキーとかとペアになったら、色々と面白い写真も撮れそうだし」
「……面白くない」
「確かに女子同士は良いかもしれないッスけど、男同士はテンションだだ下がりッスよ。俺がネック先輩とペアになったら、どうやって楽しめって言うんスか?」
「別に良いじゃない」
「ちょっ?」
「男二人で手を繋いで、勝手に仲良く行けばいいだけでぃす」
火水木は味方になってくれると思いこんでいたのか、予想外の返答に面食らうテツ。普段割と表に出さないから忘れがちだけど、そういやコイツ裏では腐ってるんだったな。
「ネック先輩も何とか言ってくださいよっ!」
「ん……そうだな。お前との肝試しだけは死んでも嫌だ」
「それは言い過ぎじゃないッスかっ?」
「じゃあグーチョキパーで分かれて、米倉君とクロガネ君がペアになった場合だけは決め直しっていう風にしてみたらどうかな?」
「うッス」
「オッケーでぃす」
無難な折衷案に二人が納得したところで、俺達はグーチョキパーに分かれて肝試しのペアを決める。狙った相手と一緒になる確率は……今回は複雑そうだな。
「分かれっこ……分かれっこ……分かれっこ……あ!」
何度か繰り返したところで、ついにペアが決定する。
俺の出していた手はグーであり、他にグーを出しているのは二人。その手から腕を辿り顔へと視線を上げると、握り拳を出していたのは阿久津と夢野だった。
「それじゃ、ジャンケンしよっか」
「え? あ、ああ」
「最初はグー、ジャンケンポン」
夢野の声を合図に、二回肝試しする人間を決めるべく俺達三人は互いに手を出す。
二人の手はパーに対して俺はグーと、勝負は一発で決した。
「「異議あり」でぃす」ッス!」
「うおっ?」
「根暗先輩とペアなんて、ミナちゃん先輩が可哀想すぎでぃす!」
「ネック先輩だけ大当たりなんてずるいッス! やり直しを要求するッス! 未確定! このペア決めは不成立っ! ノーカウントっ! ノーカン! ノーカン!」
「はいはい。そういうのいいから」
ノーカンコールのハンチョウ鉄に、火水木が容赦なくチョップを入れる。
ちなみにテツが組んだ相手は早乙女であり、その少女もまた明らかに不満そうな表情を浮かべていた。つーか理由が可哀想って、その台詞を言われる俺の方が可哀想だろ。
「ミナちゃん先輩だって、不満に決まってるでぃす!」
「…………」
「水無月さん?」
「うん? ああ、すまない。さっきの伊東先生の話について考え事をしていてね。ペア決めに関しては二人とも納得して決めた以上、文句は言いっこなしだよ」
阿久津の答えを聞いて、騒いでいた早乙女が大人しくなる。肝試しが嫌過ぎるあまり、子供みたいに頬を膨らませて黙りこんでいる冬雪を見習ってほしいもんだ。
「さっきから妙に静かだと思ったら、イトセンのなんちゃって怪談が何だってのよ?」
「伊東先生はドアが激しく開閉されたり、上の階から足音が聞こえたり、呻き声が聞こえたと言っていた。だけど現場である二階へ続く階段はボロボロで、上ることはできなかったとも言っていたんだ」
「それがどうかしたんスか?」
「そうなると二階へ上れなかったのは友人も同じだった筈。ドアの開閉や呻き声はともかく、どうやって上の階から足音を鳴らしたのかと思ってね」
「…………」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
阿久津の思わぬ気付きに、一同が沈黙し不穏な空気が流れた。
「ほ、他に上る階段があったんじゃないかな?」
「でも普通の家なら、階段は一つじゃないッスか?」
「じ、じゃあきっと豪邸だったんでぃす!」
「イトセン、二階へ上る唯一の階段って言ってたわよ」
「………………」
「まあ単に何かしら物が落ちただけかもしれないし、伊東先生の記憶違いという可能性もあるからね。別に気にするほどのことでもない……さ……」
「水無月さんは気にしなくても、私は気にしちゃうかも……」
「星華もでぃす。せめて肝試しが終わった後に話してほしかったでぃす。これじゃあミナちゃん先輩と一緒じゃないと回れないでぃす」
「……ミナ、酷い」
「あ……そ、その……すまない……」
今までのことを考えたら、決して怖がらせようとした訳じゃないだろう。
滅多に見ない阿久津の困惑する姿に、火水木が満面の笑顔で親指をグッと上げた。
「ツッキー、グッジョブ☆」
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