一日目(木) 花粉症とドゥッペレペだった件

「ぶえっくしょい!」

「えっと……アキト君、大丈夫?」


 いつも通り昼休みに集まり、食事を終えたズッコケない三人組。その頭脳担当である火水木明釷ひみずきあきとは、花粉症のためマスクを着けていた。


「ゲーム実況者とか歌い手としてデビューするんだろ?」

「あるあ……ねーよ。仮に歌うなら拙者より、うってつけの人材がいるのでは?」


 ガラパゴスなオタクことガラオタが首で示した先にいるのは、可愛い担当の男の娘。冷え症なのか未だに掌が半分も隠れる大きめのセーターを着た相生葵あいおいあおいは、自分のことだと時間差で気付いたらしい。


「えっ?」

「確かに葵なら男も女もホイホイ釣れそうだな。何かそれっぽい真似してくれよ」

「えぇっ? ぼ、僕そういうの見ないからわからないよ」

「なら何の物真似ならできるんだ?」

「ええぇっ? も、物真似は確定なのっ?」

「ちなみに拙者はピ○チュウの真似ができるお」

「アキトのピ○チュウまで3、2、1、ハイッ!」

「ドゥッペレペ!」


 まさかのゲーム版かよっ!

 予想の斜め上の物真似に、俺と葵の腹筋が崩壊した。


「他には、某アンパンの真似もできるお」

「や……やってみてくれ」

「バ○キンマン、もう許さないぞ!(裏声)」


 お、今回はまともか?

 ただ姉貴のド○えもんよりクオリティは高いが、そっくりという程でもない。


「本当の本当に怒ったぞ!(裏声)」

「ん?」

「ガチのマジギレだぞ!(裏声)」


 腹筋が爆死した。本人が言いそうにない系の物真似は卑怯だろ。

 向かいでは完全にツボに入ったのか、葵が腹を抱えて笑っている。あーあー、笑い過ぎて咳き込み始めちゃったけど大丈夫なのか?


「相生氏、大丈夫? おっぱい揉む?」

「えっ……げほっ、えほっ!」

「更に追い打ちをかけるな。本当に花粉症かよお前は」

「問題ナッスィン! というより、拙者はまだマシな方ですので」

「あー、確かに。妹の方はゾンビみたいになってたな」

「そうそう、その腐った妹から伝言があったのを忘れてたお」


 双子の妹をぞんざいに扱う兄……いや、この場合の腐ってるは別の意味か。

 アキトはチラリと隣にいる無口少女二人を見た後で、声を小さくして話す。


「米倉氏と相生氏は、ホワイトデーのお返しを既に決めているので?」

「いや、全くだな」

「ぼ、僕もまだ……」


 雛祭りが何事もなく過ぎ去り、ホワイトデーは週末に迫っている。

 基本的にはバレンタインと同じ曜日になるが、今年は閏年だったため一日ずれこみ日曜日。今回は模試もなく、完全な休日であるため渡すとしたら月曜日だろう。


「決めてないなら今週の日曜、我が家で作らないかとのお誘いだお」

「は?」

「つ、作るって、手作りってこと?」

「手作りで貰ったなら、手作りで返すべきじゃない? とのことですな」


 確かにそうかもしれないが、女子の手作りと男子の手作りはハードルが違う気もする。現に外見だけなら中間的存在である葵も、難しい顔をして考え込んでいた。

 ネズミースカイから二週間。あれからリリスとの進展はないらしい。

 恐らく葵自身も焦り過ぎだったと気付いたんだろう。我に返った今はきっと、次のチャンスに備えて地道に好感度を上げているに違いない。


「仮に作るとして、どうしてアキトの家なんだ?」

「不器用な男が集まって、クッキー作りに四苦八苦してる姿が見たいらしいお」

「…………腐ってんな」

「サーセン」

「えっと……台所とか借りて、アキト君のご両親の邪魔にならないの?」

「昼は二人とも店なので、その辺りは問題ないお」


 店っていうと、噂の火水木文具店か。

 正直お返しをどうするか悩んではいたし、手作りなら費用も安く済む。それにアキトの家ってのも少し興味があるし、行ってみるのも面白そうだ。


「ん……俺は良いけど、葵はどうする?」

「じ、じゃあ僕も行こうかな」

「トンクス!」

「はいここでピ○チュウ」

「ドゥッペレペ!」

「ドゥッペレペ!」

「流石は米倉氏。バッチリだお」

「っ…………っ……っ――――」


 葵が呼吸困難になる魔法、ゲットだぜ。ドゥッペレペ~。

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