三日目(水) プレゼントが月とスッポンだった件

「ここの6止めてる人、正直に言いなさい。今ならまだ怒らないから」

「……私」

「お前か冬雪ぃっ!」

「米倉君、それ怒ってない?」

「いつ怒るのか? 今でしょ!」

「まあ大抵の大人は、今ならまだ怒らないと発言した時点で既に怒っているけれどね」


 食材を粗末にすることもなく、きっちり完食した鍋を片付け終えてから食休み。今回はハロウィンの時のような人生ゲームも特に用意されていないらしい。

 もっともトランプ一つあればゲームは事足りる。火水木のオカリナ演奏や葵の手品(意外だが中々に凄かった)といった余興も経て、パーティーは中々に盛り上がっていた。


「たっだいまー。そろそろお待ちかねのプレゼント交換といくわよ!」

「そ、それはタクローの靴!」

「サンタクロースのそんな略し方は初めて聞くけれど、キミは一体サンタの何なんだい?」


 そりゃ息子だろう。だって父親は昔サンタだったし、俺もいつかはサンタになる日が来るのかもしれない…………あれ、これ結構良いこと言ってない?

 いち早く勝ち抜けし席を外したため、てっきりトイレにでも行ったのかと思いきや、陶芸室に戻ってきた火水木はお菓子の詰まったサンタブーツを抱えていた。


「ふっふっふ。ネック、これがどういう意味かわかるかしら?」

「アイツの靴がここにあるってことは…………」

「……きっと困ってる」

「確かに。片足だけ無くなってたら、サンタさんも驚くよね」


 違う、そうじゃない。

 考え方が平和的な二人に思わず突っ込みかけるが、それより先に誰もが聞きたかった質問を葵が尋ねた。


「ひ、火水木さん。どこから持ってきたの……?」

「準備室よ。これはイトセンのプレゼント。先生も交換したいので、やる時にはこれも混ぜてお願いしますって言われてね」


 あの人らしいと思いつつも、伊東先生の線引きがいまいちよくわからない。参加せずに見守ることもあれば、こうして参加することもあるのは気分次第なんだろうか。


「とりあえず各自、用意したプレゼントを真ん中に置いて頂戴」


 言われた通り、各々が鞄から取り出した品々が机の中央へと集められる。どれもこれも包装されたり箱や袋に入っていたりで、サンタブーツ以外は中身の判断が不可能だ。


「じゃあ誰かしらのを適当に取って、音楽が流れたら時計回りに回すわよ」

「火水木君の分と、伊東先生の分。二つの余りはどうするんだい?」

「ひとまずアタシの所に三つ置いといて、適当に回していくわ。自分のプレゼントが戻ってきちゃった人の交換用ってことで。それじゃ、音楽スタート!」




『イェセガンガンガンガンガンガンガンガンガ~ンッ!』




「ちょっと待てぃっ!」

「あ、間違えた」

「プ、プレゼント交換って感じの音楽じゃなかったけど……」

「ちゃんと交換用の曲も用意してるってば! 改めて、音楽スタートよ!」


 仮にミスだとしても、何故その曲が即座に再生できる状態にあるのかは聞かないでおく。

 仕切り直しでクリスマスソングが流れると、プレゼントを回し始める仲間達。伊東先生のサンタブーツだけが物凄く回しにくかったが、一分もしない内に曲が止まった。


「はいストーップ! 自分のが回ってきた人は?」


 各々が顔を見合わせるが、特に該当者はいないらしい。

 俺が手にしたのはノートサイズの薄いプレゼント。誰からとは書かれていないが、最初に中央へ集めた際に誰が置いた物かはしっかりと覚えていた。


「じゃあ一人ずつ見せていくわよ。今度は逆回りでネックからね」

「ん? 俺からか」

「キミのプレゼントはボクが用意した物だね。中々良い物が思い付かなくて困っていたけれど、受け取ったのがキミで良かったよ」

「どういうこ……あ」


 盛大にテープを剥がすのを失敗。梅と同じミスをする辺り、流石は兄妹と言うべきか。

 阿久津の贈り物は綺麗に開封できないというジンクスが生まれつつも、少女の意味深な言葉に期待しつつ包装を解いていく。これ程のワクワクは久し振りだ。


「…………」


 そしてこれ程の落胆もまた、随分と久し振りかもしれない。


「……ミナらしい」


 ノートサイズの薄いプレゼント中身は、まさかのノートそのもの。俺も一度は考えた選択肢である、ペンや消しゴムも加えた学生の必需品セットだった。

 それも相手が阿久津からだと、暗に勉強しろと言われた気分になる。確かに俺にはピッタリなプレゼントだが、色々と妄想を膨らませる発言のせいでショックを隠せない。


「ちょっとネック。そんな顔したらツッキーに失礼でしょ?」

「わ、悪い。サンキューな阿久津」

「どう致しまして。次は相生君の番だよ」

「う、うん。開けるね……?」


 幼馴染の少女は、俺の反応など気にも留めずに淡々と次を促す。何だか縮まってきた距離がまた少し開いた気がするが、現状が離れ過ぎているので深く考えるのはやめた。

 葵が持っているのは丁寧にラッピングされた掌サイズの箱で、渡し主もわかるように夢野と付箋が貼られている。そのため心なしか嬉しそうに、彼は中身を取り出した。


「わっ! 可愛い!」

「おぉー。ユメノンってば、流石の女子力ね」

「……凄い」


 中から出てきたのはサンタの服を着た小さな狐。夢野が働いているコンビニのマスコットで、確か名前はコン太君とかそんな感じだった気がする。


「これ、手作りか?」

「うん。羊毛フェルトって知ってる?」

「あー、あれな。葵が歌ってそうなパートだろ?」

「えっ? あ、アルトなら女性パートだけど……」

「じゃああれだ。電圧の単位!」

「それはボルトでしょうが」

「何だかコントみたいだね」

「五人もいれば誰かが突っ込むな……よし。第一回ポイント制、突っ込み大会だっ!」

「えぇっ?」




「カレーやスープは!」

「……レトルト」

「乳製品なら!」

「ヨーグルトだよね」

「超常現象!」

「オ、オカルト……?」

「標準設定!」

「はいはい、デフォルトデフォルト」

「都会の足元は!」

「……コンクリート?」

「違うよ音穏。アスファルトだ」

「アネックブーン!」

「それサマーソルトじゃなくてソニックブームでしょうがっ!」

「テニスで失敗!」

「ダブルフォルトだっけ?」

「音楽家だな!」

「W・A・モーツァルトかい?」

「車に乗ったら!」

「……シートベルト」

「崩壊するもの!」

「ゲシュタルトね」

「アメリカの大統領!」

「セオドアとフランクリン。ルーズベルトは二人いるよ」

「ソーセージ的な!」

「……アメリカンドッグ?」

「それだと衣が付いちゃうから、フランクフルトじゃないかな?」

「相手モンスターを全て破壊する!」

「サンダーボルト……って、マニアック過ぎでしょアンタ」




「勝負あり! 優勝は火水木っ! 商品はコン太君だ」

「ええぇっ?」

「イエーイ! ってそうじゃなくて、今は羊毛フェルトの話でしょうがっ!」

「ちゃんとわかってるっての。俺の伯父さん、羊毛フェルトみたいなもんだからな」

「どんな伯父さんよっ?」


 予想以上に突っ込み大会が上手くいった後で、再びコン太君に注目が集まる。しかし改めて見ると、店で売られていてもおかしくないレベルの完成度だ。


「……ユメ、器用」

「そんなことないよ。羊毛を針で突くだけだから、今度雪ちゃんも一緒にやってみる?」

「……(コクリ)」

「じゃあ続けるわよ。次はユメノンの番ね」

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