エピローグもしくはプロローグ

「これで、教科書に書かれていない神鬼大戦の記憶は終わりです」

 左目が緑色の少女が、静かに口を閉じた。

「それからずっと蜜月って人はここで蛤石を抑えているって訳か」

 地面に届く程の長い髪をツインテールにして、怖い物無しと言わんばかりの微笑みを口元に湛えている少女が眼前の大木を見上げた。

 五、六メートル程のその木は、ドーム状の建物の中に有る。窓からの日光しか受けていないにも拘わらず、一年中緑の葉っぱが生い茂っている。実も花も付けない、謎の木。

「そうしないと、また神鬼が沸いちゃうから」

 左目が緑色の少女は、パッツンに切り揃えてある前髪越しにツインテールの少女を見た。

 二人共、赤とピンクのセーラー服を着ている。

「この樹の中に有る蛤石はまだ生きてるの?」

「うん」

 腰まである真っ直ぐな長い髪を揺らして頷く、左目が緑色の少女。

 ツインテールの少女は、両手を腰に当てて再び大木を見上げた。

「大戦が終わって、四十年? も、ずっとここに立っているって訳か」

「正確には三十八年ですね。今年の冬で三十九年。そして、これからもずーっと立ち続けるの」

「ふーん。この人形も?」

 視線を木の根元に落とすツインテールの少女。そこには、身体の右半分が木に埋っている等身大のメイド人形が有った。服はボロボロで、左腕は無くなっている。それでも内部で何かが動いているのか、機械的な音が微かに鳴っている。

「樹木化した蜜月さんを守る為に、ずっとここで寄り添っていたのね。近付く人を攻撃するから、武器は外されてますけど」

 フン、と鼻を鳴らすツインテール少女。

「じゃ、さっきから鳴ってるキュイキュイって音は、あたし達を攻撃してるのか」

「うん。脳みそはとっくの昔に溶けて無くなっているのに、まだ動いてるの。不思議ですね」

 ニヤリとするツインテール少女。十代前半なのに、妙に偉そうにふんぞり返る。

「戦争なんてバカな暇人がやる物だと思っていたけど。色々と悲劇って奴が有るんだねぇ」

「そりゃそうですよ。雛白明日軌が決死の行動をしなかったら、私達、今ここに居ないんですもん」

「ハァン?」

 小バカにした顔で左目が緑色の少女を見下ろすツインテール少女。

 パッツン前髪少女はツインテール少女の肩くらいの背しかない為、普通にしていても見下ろす形になる。

「何? 岳輝がっきも、昔の人が命を賭けて戦ってくれたから今の平和が有るって言うタイプ?」

 岳輝と呼ばれた左目が緑色の少女は、可愛らしい顔を歪ませてムッとする。

「タイプって何ですか。シヌエちゃんがこうして偉そうにしていられるのも、昔の人が頑張ってくれたお陰でしょ?」

 シヌエと呼ばれたツインテール少女も、ささやかな反抗を受けて不機嫌な顔になった。

「始めから戦争起こさなきゃ頑張る必要無いじゃん。聞いた限りでは、猿人が樹人を迫害したのが最初なんでしょ?」

「まぁ、そうだけど」

「猿人が謝るか、樹人が自分達の国を自衛しとけば良いじゃん」

「それで済んだら、本当に戦争は起こらないですよ。でも、実際には起こっちゃう」

「だから戦争はバカな暇人がやるもんだって言ったの。無意味過ぎ。ま、今、あたしは生きていてすっごく楽しいから、感謝はするよ」

 ハッハッハッと笑ったシヌエは、真顔になって木を見上げる。

「んで、と。コクマってのが、雛白学園の初代学長だよね?」

「うん。そう」

「のじこさんは毎日会ってるから分かってる。じゃ、エンジュはどこで何をしてるの?」

「呼んだ?」

 二人以外の声がしたので、二人の少女は赤とピンク色のスカートが広がる勢いで振り向いた。

 ドーム状の建物の入口に、背の低い女性が立っていた。銀色のもみあげを耳の後ろに撫で付けていて、灰色の瞳で二人を睨んでいる。

「妹社・F・シヌエ。日渡岳輝。二人は立ち入り禁止区域に無断で入った。それは一発停学だって事は知ってるよね?」

「う……えっと、その……」

 今まで余裕たっぷりだったシヌエが冷や汗を掻き始めた。

「待ってください、のじこさん。これには訳が有るんです」

 シヌエの前に出た岳輝を見る妹社のじこ。

 もう五十才近いのじこだが、見た目は中学生の少女達とほとんど変わらない。長寿命タイプの妹社だかららしいが、大戦経験者の中では飛び抜けて若い。そして巫女の様な格好をしているのだが、普通の白赤ではなくて、黒赤の配色になっている。

「訳?」

「この蜜月さんの木がここに立ってから、のじこさんはずっと雛白邸跡地で雛白明日軌が帰って来るのを待って居たんですよね?」

「龍の目で見たんだ。だから?」

 普段は徹底的に無表情なのじこだが、岳輝を見る時だけ、ほんの僅か瞳が赤くなる。最初は不思議だったが、この地に残る雛白明日軌の記憶を手繰って行ったら訳が分かった。のじこは、岳輝と明日軌を重ねて見ているのだ。

「それを見兼ねたコクマが、雛白邸跡地に妹社の子の為の学園を作った。そして、のじこさんは警備員として雛白学園で暮らす事になった」

 雛白邸跡地から動こうとしないのじこを救うには、それしかなかった。

「でも、不思議じゃないですか?」

「何が?」

「コクマって、躊躇い無く人が殺せるくのいちですよね。それがどうして、過労死するくらい頑張ったと思います?」

 戦後すぐに雛白学園が建たなかったら、戦後の教育は十年遅れていたと言われている。極限まで人口が減ったのに人類の技術や文化がほとんど失われなかったのは、初代学長の働きが大きいとも言われている。

 そうなる様に不眠不休で学園を切り盛りした結果、彼女は三十代の若さで病死している。

「分からない」

 首を横に振るのじこ。

 確かに、のじこをや人類を救う様な真似をする女じゃなかった。どちらかと言えば、破壊と殺戮が似合う女だった。学長に相応しいのは、行方不明のまま見付かっていない兄のハクマの方だろう。

「雛白明日軌は黒沢夜彦って人に妹社学園の設立と経営をお願いしてたみたいですけど、コクマは自分が学園長になった。それは、私をここに立たせる為です」

 岳輝の緑色の左目を見るのじこ。

「私が今日ここに立つ事を、雛白明日軌は知っていた。シヌエちゃんが私を引き摺り回す事を知っていた。だって、街のあちこちで雛白明日軌と目が合うんですもの」

 シヌエは腕を組み、話の成り行きを見守る。

 岳輝はのじこの瞳をチラリと見てから、視線を下げた。細かい砂で覆われている、大戦時のままの地面。

「のじこさんの瞳が灰色なのは、過去しか見てないから。それを雛白明日軌は悲しみ、コクマは憂いた。ここの鍵を手に入れられたのも、コクマの記憶が残っていたからです。彼女は私に分かる様にこの鍵を隠していた」

 ポケットから真鍮製の鍵を取り出した岳輝は、それを掲げて赤黒巫女に見せる。

「明日軌が、悲しんでる? 私のせいで?」

 のじこの眉間に皺が寄る。表情が出ると高い年齢が顔に現れる。

「はい。戦争はもう終わっているんですよ、のじこさん。雛白明日軌は帰って来ない。それを証明します」

 岳輝は身体の向きを変え、木を見上げる。

「蜜月さん。雛白明日軌から預かっている懐中時計が有りますよね? 可能なら、それを貸してください。シヌエちゃん、探してみて」

「へ? あたしが? ……別に良いけど。どこに有るの?」

 他人に指図されるのが嫌いなシヌエだが、停学になるかどうかの瀬戸際っぽいので、仕方無く頷いた。

「この木のどこかに手が入れられる穴が有ると思う。そこ」

「手を入れる? ちょっと待って。この木に触れっての? 危険なんでしょ?」

 蛤石を取り込む様に立っている謎の木には、殺人的な特性が備わっていた。生き物が触ると、身体が砂に変わってしまうのだ。手で触ると、手首から先がサラサラと崩れて行く。長い間蛤石と一体になっていたせいで、蛤石の能力が木にも移ってしまったらしい。

 鳥が枝に停まっても砂に変わる為、こうしてドームで囲んでいる。

 その代わり、全世界に有った蛤石は普通の水晶に変化し、今では全てが砂に帰っている。

「大丈夫。シヌエちゃんはフルスペックですし。フルスペックは蛤石に触っても平気なんです。シヌエちゃんにしか出来ない事なんです」

 ツインテール少女の名前、妹社・F・シヌエのFは、フルスペックの頭文字。全世界で彼女しか名乗りを許されていないミドルネーム。

「しょうがないなぁ」

 恐る恐る木の周りを歩くシヌエ。

「あ、穴発見。ここかよ……。怖いなぁ」

 埋っているメイド人形の背中の部分。人形から武器を取ったせいで、人形と木の間に片手が入れられる程度の穴が開いている。

「本当に触っても大丈夫なんでしょうね?」

「試した事が無いから絶対は無いけど、大丈夫じゃない? まぁ、ダメでも痛い目を見るのはシヌエちゃんですし」

 サラリと言う岳輝に顔を引き攣らせるシヌエ。

「岳輝、あんたねぇ……」

「シヌエちゃん、自分で言ってたじゃないですか。戦争を起こさなかったら戦争は起きないって。シヌエちゃんが過去を知ろうとしなければ、やってはいけない事をしなければ、こんな事にはならなかったのよ?」

「むむ。分かったわよ」

 自分が言った事を返されては反論出来ない。

 シヌエはゴクリと生唾を飲み、穴を覗いてみる。暗くて何も見えない。

「警備員としては生徒が危険な事をするのは見逃せないけど、これが明日軌の言う事なら絶対大丈夫」

 力強く言うのじこ。灰色の目がさっさとやれと言っている。

「最初のフルスペック、妹社蜜月。現代のフルスペックに怪我させないで頂戴よ?」

 緊張を隠さずに、ゆっくりと穴に手を入れるシヌエ。中身が動いている人形に近付くのも怖い。

「う、ちょっと木に触っちゃった。でも、大丈夫だった」

 穴の中は、ちょっとしたポケット程度の空間しかない。勢い良く手を入れていたら突き指していた。

「んー。何も無いよ? うおっ、びっくりした」

 懐中時計が有るのなら底かと思ったが、木屑しか無い。

 トゲが指に刺さらない様に気を付けて木の壁を触っていると、突然硬い物が落ちて来て手の甲に当たった。

「これかな?」

 穴から手を抜くシヌエ。その手の中に銀色の円盤が収まっている。

「これで良いの?」

「のじこさんに」

 岳輝に懐中時計を渡そうとしたシヌエは、方向を変えてのじこにそれを手渡した。

「明日軌……」

 くすんだ銀の懐中時計をじっくり見るのじこ。これを明日軌が持っていたのを見た事が有る。

 蓋を開くと、止まった針が五時三十八分を指していた。

「二重蓋です。のじこさんは尖った物を持っています。それで開きます」

 ハッキリ断言する岳輝に頷き、懐からナイフを取り出すのじこ。

 そして懐中時計の蓋の裏を灰色の瞳でじっくりと見た。隙間が有る。確かに開きそうだ。

 ナイフの先を器用に使い、蓋の裏に張り付いている薄い皮の様な銀の板を開ける。

 そこには紙切れが入っていて、ヒラヒラと地面に落ちた。二つ折りの紙切れを拾い、書かれている文字を読むのじこ。

 その内容が気になったシヌエは、銀髪の上から紙を覗いた。


『帰れなくて、ごめんなさい。

 でも、私は心配していません。

 のじこさんが生きていてくれるから。

 私は過去からのじこさんを見ています。

 未来の子供達を守ってくれて、ありがとう』


 小さな紙切れと比例した物凄い小さな字で、そう書かれてあった。

「お母さーん。ここでしょ?」

「ユイさんからお電話ですよー。携帯の電源入れ忘れないでって、しょっちゅう言ってるでしょー?」

 シヌエ達と同じ赤とピンクのセーラー服を着た二人の少女がドームの入り口で大声を出す。二人共のじこそっくりで、銀色の髪が春の日差しを受けてキラキラと輝いている。

「そう言えば、話の中で出て来た植杉義弘って人、携帯電話とかたっかい高性能テレビとか作ってるウエスギの社長だよね?」

 小声で岳輝に話し掛けるシヌエ。

 しかし、岳輝は生返事を返した。

 怪訝な顔をしたシヌエは、のじこの顔を見てギョっとした。学園に害を成す不審者を鬼の無慈悲さで撃退する最強警備員ののじこが、大粒の涙を流していた。

「シヌエちゃん。もうここには用は無いよね。帰ろう。のじこさんも」

 岳輝がそう言うと、のじこはぐずっと鼻を啜ってから黒い袖で顔を拭った。

「そうね。今日、ここに無断侵入した件は、私が許可した事にします」

 涙声で言ったのじこは、約四十年ぶりの涙を恥ずかしがりながらシヌエに懐中時計を渡した。

「これ、蜜月に返して」

「分かった」

「いいえ。それはのじこちゃんが持ってて」

 ホラー映画で聞く様なしわがれた声がしたので、シヌエと岳輝は飛び上がる程驚いた。

 誰が喋ったのかと声の主を探すと、メイド人形の口が開いていた。

「アイカが、喋った? いや、違う。蜜月か。そうだよね?」

 訊くのじこ。

 しかし返事は無い。自由に喋れる訳ではないらしい。

「ここでアイカが木に埋っているのも、明日軌の指示かな」

 そう言うのじこに無言で頷く岳輝。

「そう……」

 紙切れを懐に入れたのじこは、懐中時計を右手に持っているシヌエに穏やかな顔を向けた。

「それはシヌエが持っていて。それが良い気がする。明日軌と蜜月の想い。次に繋げて」

 懐中時計に黒い瞳を向けたシヌエは不敵に笑った。

「受け取りましょう。先代の龍の目とフルスペック、二人の想い。世界の重さに匹敵する想いだわ。あたしの夢にぴったりの品」

「じゃ、また来るね、蜜月。バイバイ」

 のじこは、木に向かって少女の様に手を振った。

 そして三人は薄暗いドームから外に出た。太陽が眩しく、目を細める三人。

「「お母さん、目が赤いよ!? どうしたの?」」

 外で待っていたのじこの娘、ヒバリとウグイスが、立ち入り禁止区域の扉の鍵を閉めている母の顔を見て同時に口を開く。

「別に。ただ、あんた達をもっと大切にしようと思っただけよ。――そんな事より」

 キョトンとする銀髪双子の頭を撫でてからツインテール少女に赤い瞳を向けるのじこ。

「シヌエ。理由を聞かせて。岳輝を連れ回し、ここに入った理由。まさか、シヌエも明日軌の言葉を見付けたの?」

「違うよ。あたしは、あたしの夢の為に動いただけ。それはね……」

 春の温い空気を肺一杯に吸い込んだシヌエは、大声で宣言した。


「あたし、妹社初の大統領になるから!」


 突拍子も無い言葉に全員の時間が止まる。

「どう言う事?」

 辛うじて岳輝が聞き返すと、シヌエは背の低いビルが建ち並ぶ雛白市の空を見渡した。

「それがフルスペックの役目だと思うんだよね。人の上に立つ事が。その為には、色々と知ってないといけないと思ってさ。故きを温ねて新きを知るって奴よ」

 全員がフーンと返事をした。

 そして学園に向けて歩き出す。

 それがシヌエには面白くなかった。

「何その反応。あたし本気よ! 世の中を良くし、愚かな戦争が起こらない世界を作りたいの! この懐中時計に籠められた想いも平和への祈りみたいな物だったから、それがあたしの使命なのよ!」

 神鬼が現れなくなって、数十年。世の中から無意味な死が無くなり、平和になった。

 だが、世界から戦争が無くなった訳ではなかった。

 主に外国での話だが、神鬼から逃げる為に故郷を捨てた人達が、各地で小競り合いを起こしているらしい。避難地から故郷に帰ったら関係無い人が住み着いていてケンカになったり、勝手に王を名乗って奴隷を集めたりしているんだそうだ。

 一応、イモータリティーと呼ばれる外国の妹社がボランティアで治安維持に動いているが、ほとんどの地域が無政府状態なのでどうにもならない。

 だから、唯一の歴史有る政府となったこの国のトップになり、外国の妹社を纏めるのがシヌエの夢だと言う。

「本気なのは良いけど、政治家になるにはどうすれば良いの? 東京の高校大学に行くの? 東京には血統保持令が有って、妹社には監視が付く上に長期滞在は出来ないんですよ? 私もそうだから知ってる」

 半笑いで訊く岳輝を、「何も知らないのね」と言いながらバカにした目で見るシヌエ。

「フルスペックには特例が有るんですー。警備付きの国営施設なら下宿が出来るの。岳輝も特例の対象だと思うよ。世界にたった一人の龍の目の持ち主だから」

「そうなの? 知らなかった」

「でも、あたしは東京には行きません。人口増加計画の一環で高校に託児所が有る街なんて怖くて行けないっちゅーの」

 シヌエは長いツインテールを手の甲で弾く。

「あたしはこの雛白市雛白学園出身の大統領になるの。郷土愛って奴。この街は人類復興の要なはずなのに、東京に行かないと偉くなれないなんておかしくない?」

「まぁ、頑張れ。夢を見るのは自由だし」

 双子の姉、ウグイスが言って、妹のヒバリが続く。

「取敢えず、主席くらい取らなきゃ」

「万年三位のシヌエが主席?」

「出来るかなぁー?」

 ゲラゲラと笑う双子。

 のじこも笑っている。笑顔を始めて見た。

「なるもん! ね? 岳輝の龍の目で見れば、あたしの大統領姿、見えるよね?」

「私、未来は見ません。すっごく疲れるし、生きる楽しみも減っちゃう」

「えー、良いじゃーん、見てよー」

「い、や、で、す! こればっかりはどんなにしつこくお願いされてもお断りします。下手すると私の頭が壊れちゃうし」

「む、ぐぅ~。良いもん。なるもん! 中等部主席なんか、今すぐなってやるもん!」

「がんばれ~」

 両手を空に突き上げて駄々を捏ねるシヌエをバカにし返す様に笑う岳輝。

 しかし、のじこには分かっていた。多分、岳輝はシヌエの将来を見ている。だからこそ、シヌエと一緒に街中を見て回ったのだろう。ワガママな友達の助けとなる様に。

 明日軌にもそんなところが有った。優しいウソも言われた。

「シヌエ」

「ん? 何? のじこさん」

「今回の件は、学園には秘密にしてあげる。けど、凛には伝えておくからね。停学食らったら主席どころじゃないんだから、これからはちゃんとしてよ」

「んげぇ! ばあちゃんに言うの? 絶対怒られるじゃん! のじこさん、お願い、言わないでぇ~」

 必死に手を合わせるツインテール少女に薄く微笑んで見せるのじこ。

「言う」

 絶望を味わい、涙目になるシヌエ。

 何とも安っぽくて軽い絶望だが、平和が当たり前で飢える事を知らない今の子供には十分重いのだろう。

「これで良いんだね? 明日軌」

 この街のあちこちで見てくれているであろう昔の女主人に向かって、のじこは呟いた。

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レトロミライ 宗園やや @yayamaru

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