4 最後の授業2
医者になりそこねた男の小学校の卒業文集
"僕の夢は医者になることです。お父さんも、お母さんも医者です。だから、夢というより義務なのです"
教室中は水を打った様に静かになっていた。鈴原正の授業でこんなことがおこることなど、鈴原の短い教師生活でも一度もなかったことである。
「今日は、欠席が三名、、あ、それと今途中退席が一名ですか?残念ですね、あれほど準備した教材があるのに、それと、さすがにこれは、刺激が強すぎるので、布をかけておきましょう、そのほうが、あとで、色々問題が出せるのでね、、、」
そういうと鈴原は白いよく見ると各所に赤黒いシミだらけの布を人体表模型にばさっとかけた。
「今日は、やけに静かですね、小川くん、藤堂くんがいないと、君の天下じゃないのですか?そのあと、放課後調子に乗った分だけ、確実に金を藤堂くんから絞り取られていたのは、知っていましたけど、教師は、意外と生徒のことはなんでも知っているもんすよ、いや、人はと言い変えるべきでしょうかね」
鈴原が問いかけるようにして首をかしげた。
小川は、上目づかいで鈴原を見つめるだけだった。
「この静けさこそが、教師への真の敬意ですよ。自由闊達な授業なんて、理想中の理想ですね。文科省の要項の中にしか存在しない」
小さい声だったが、鈴原は饒舌に話した。
「どうやら、今日は敬意は勝ち得たみたいですが、自由な教師と生徒の闊達なやり取りが完全にうしなわれているみたいなので、勝手に進めます。授業の時間も限られていますしね」
鈴原は教卓をしっかりつかみ、前のめりになり、生徒に話しだした。しかし、まだ、教卓には、布がかけられた水槽があった。
しかし、こんな自信に満ちた鈴原を生徒たちは見たことがない。
「さっきの話に戻りますが、これが、実は重要なのですが、欠席の三人ですね、クラスのボス、でこのままだと、おそらく高校には進学できそうにない藤堂くん、そのパシリを奴隷や下僕のようにやらされ、不登校ひきこもりになっていた、酒井くん、そして、クラス一の美人、野々宮さんが欠席となっていますが、そうですね、人というものをどう定義するかで、この出席欠席は変わってきますね。
医者というものは、変わった職種で、おそらく、生命の定義や人の定義を一番変わった形で持っているのではないでしょうか?。視力をUPさせてくれる、眼鏡はどうでしょう?おそらく、道具ですね。補聴器は?。うーんちょっと臓器に近くなってきましたね。でも道具でしょう。小さな電池で動いています。
心筋近くに埋め込まれた、ペースメーカーは、、。ちょっと難しいですか?。、
なんか話がずれてきましたね、やっぱり私は、教師失格なのでしょう。
言いたいことはですね。医者は、人をパーツとして見ているということなのです。そうとっかえ可能な、だけど、どこからとっかえ不可能なのでしょう?。えーそれでは、
丁度教室の真ん中に位置する
「脳ですか?」
「良い答えですね、どうせ、どこかの受け売りでしょうが。記憶までとっかえたらどうなりますか?。やめときましょう。こんなのは、もうディックが何十年も前に模造記憶で書いています。
それより、馬場くん、君が犯した万引きでお母さんがコンビニで土下座した話は、クラスのどれくらいの生徒が知っているんですかね?。
やっぱり話が反れていきますね、早い話、私が言いたいのは、今日、いまこの教室でクラスメートでいないのは、今駆け出していった、栄さんだけなのです。
この完全人体標本には、三人分の臓器がミックスされて入っています。完璧とは言いませんが、つなぎ合わせて、この人体の形をした筐体にいれてあるのです」
そして、鈴原は、一拍も魔を置かず、叫びだした。今度は、さっきのルート音から9thの音で。
「ぎゃああああああああああああ」
もうそれに反応する、生徒は誰もいない。
「まぁ、状況により、情状酌量もありますが日本の判例だと、だいたい、一人殺して無期懲役。但し無期とはいえ刑務所内で模範囚で過ごすと、15年20年か30年で仮釈で出所してきます。でも、まぁ、出てきたら、もう初老か老人でしょう。きっちり人生を奪ったことになります。で、二人以上殺すと確実に死刑だ。ここからは、授業の興味を生徒をもたせることを文科省も要項で書いているので、私もそれに倣いますが、私が殺したかどうかは、意図的に伏せます。
ただ、死体損壊は犯した。これは認めます。
こんなことも、あるのだなぁ、なんて思ったものですが、ある朝目覚めると、死体が三体揃っていた。そして、私は命に対する考えや教育感を逆転させ、これを生徒への教材にすることにしました。
知っていますか、教材で利用する限り、そのすべての媒体は、どんなに丸写ししようと一切の著作権を免除されています。塾などありますが、まぁ、営利目的で使うのなんて難しいですがね。だから、死体を教育目的私用する限り、死体損壊罪にはあたらないかもと思ったんですよ。どうですか、来栖さん狂っていますか先生は?」
「あなたは、いつも偽善振って喋ってましたからね、私は、平気で詰るか、偽善振って泣き出すかどっちかだと、思っていましたけど、意外に鈍感というか、強いですね。それで、学級委員だ。しかし、どうしてそこに成績が比例しないのかが先生には、謎ですけどね、まぁ、受験は来年なんで今からでも間に合いますが、私の数少ない教師生活の経験から言わせてもらうと、中一から、中三にむかって、成績順が大逆転するなんてこと、ほぼないですね。中一の一学期のまんま。来栖さん、あなたが、志望している、私立淑聖学院なんて、まず無理ですね」
座ったままだったが、来栖希美の顔はひきつったままだった。
「あんまり、面白くないですか、この授業は。実は、死体でなく、臓器だってところが、ミソなんですけど、あんまりピンと来ていないみたいですね。やはり公立の中学は駄目ですね。臓器が、人か、死体かとか、議論したかったのですが、議論が全然進まないので、次へ進みます。
授業というものは、勝手に教師が進めていくものです。ほら、あれですよ、板書を消すぞ~とか、言って笑いを取るやつ、、」
そういうや、鈴原は一人でクスクス笑いだした。
「まぁ、私は、小さい頃から、ユーモアのセンスはほとんどなくて、人を笑わせたことなど、ないので、しょうがないですが、
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