3 最後の授業1
医者になりそこねた男の小学校の卒業文集
"自慢は、中村学園の統一模試で算数で市で5番になったことです。となりの
「どのあたりから、話すべきでしょうかね、最後にして最大に重要な授業ですから、皆さん、聞く価値はあると思いますよ、残念ながら三人が欠席ですが、、。この事実が、何においても重要です」
鈴原は、自信なげにうつむき加減でしゃべっていたが、一切も聞き逃すまいと、クラス全員静まり返っていた。
「今日は、何日ですかね、
「22日です」
久慈が答えた。
「いけない、長期療養していると、曜日や日にちの感覚がなくなってね、、じゃあ、出席番号22番のえーと、
「はい」
細いガリガリの背の高い渡邊が立たなくても良かったのかもしれないが、立ち上がった。
「この世でいちばん重要なものってなんですか?、いや、この地球で、この学校で、このクラスで、いや、君にとって、いや、人類にとって?」
渡邊は、一瞬怯んだが、あまり躊躇せずに、答えた。
「人の命です」
鈴原は、急に雄叫びを上げ、
「おおおおおお、素晴らしい、そして、くだらない。なんのいや、どこの受け売りですかナベちゃん」
「受け売りでは、ありません。そう、思いました」ナベちゃんは、答えた。
鈴原の声は、急にトーンダウンした。
「実は、僕もね、ずーっとそう思ってきました。だから、鬱になり、長期療養が必要となったのです。学年主任の非人道的な指導によってね、しかし、それが一変しました。皆さんにも、その価値観の転換というやつを、この私の最後の授業でおこしてほしいんですよ。
そうすれば、おそらく、絶望することなく、残りの人生を生きていける。人になんて何の価値もないですよ、命にも、人間にも、価値観の転換が起きたのはですね、私のところに、、、あぁ、、いけませんね、あれほどいろいろ教材を用意して準備したのに、やはり私は、教師として失格なのでしょうかね。先に、ネタばらしするところでした。
とりあえず、見てほしいものがあるんですよ。わが愛すべき二年四組のみなさんに、。
それは、これです」
鈴原正は、教壇の上でばっと、半身になると、人体標本模型にかけられていた、白い布を思い切って、外した。
そこには、これといった、何の変哲もない、人体標本模型が立っていた。半身は、つるんとしたセルロイド出来た、中学生らしき男性の皮膚を模した皮膚、どこにも、毛が生えていない。
そして、半身は、正確には、内蔵全体が可視化されて皮膚に当たる部分が、ないのだが、人の臓器を模した、同じくセルロイドの臓器がきちんと、詰まっている。
両腕は、肘までと両足は、太ももまでしかない。臀部に太い金属の棒が突き刺さった形になっていて、土台からこの標本模型を支えている。
ニュルという、微妙な音が響いたかと思ったら、小腸の一部分が模型から飛び出た。
それは、セルロイドにしては、いやに生艶めかしかった。
そう思いきや、なにやら、確認不明な赤黒い臓器が一つ、教室の床に落ちた。
「おっと」鈴原は言った。
それは、弾力を持ち、落下すると同時に、赤い汁を周りに若干飛ばした。
それを見てノートを汚された立原藍でなく、教室の中間辺りから、悲鳴が上がった。
「きゃあああああああ」
女性とらしい、甲高い澄んだ悲鳴だったが、途中から、
「ぎゃあああ」というだみ声がルート音から7thの音程差で多少ディストーションをかけて発せられた。
その女性との声にあわせて、鈴原正が、目を丸め、口をOの字に開き、半笑いで女性とより大きな声で叫んでいた。
鈴原が叫んでいることに気づいた、悲鳴を上げた女生徒、
しかし、鈴原は、楽しむかのように、悲鳴を上げ続けた。
「ぎゃああああああああああ」
そして、悲鳴を上げながら、臓器を拾い上げると、人体標本模型のあるべき位置へ戻した。
鈴原は悲鳴を止めた。
「これでも、みなさんのいや社会のですか、迷惑にならないようにと風呂場でめっちゃ血抜きをしたんですがね、まぁ、完全には、どうやら無理みたいですね」
鈴原の臓器を拾い上げた右手は、どす黒い血で真っ赤だった。
その手をみたせいか、教室の最前列に近い、
「おお、ゲロは駄目ですよ、なにより、くさい。この人体標本模型にどれほどの防臭対策をおこなったかクラスのみなさんはしらないでしょう腸の内容物は血と同じで、すべてこの手で絞り出しました」
これが、榮鞠子に対して決定打になった。
鈴原は、そういうや、教壇を廊下に向かい駆け出すや、L字型の留め具を目にも留まらぬ早業で開けた。
「体調がすぐれない様なので、栄さんの退席を許します」
榮鞠子は、口をハンカチでおさえながら、廊下へ駆けでた。
「他の皆さんも、出るなら、今のうちですよ、但し、仮病は認めません、通常の授業と同じですから」
そういうと、鈴原は、もう一回、さっきの7thコードの悲鳴を上げだして、L字型の金具をスライド式のドアに掛けた。
「ぎゃあああああああああああああああ」
それは、7thの音などでなく只の叫声で狂声でしかなかった。悲鳴は永遠につづくかと思われた。
もうルート音もベース音も教室には存在しなかった。
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