第2話 「サイモン」

「さて、“あの子”はどうしているでしょうか…良い天気ですから“混ざっている”と良いんですけど」


ゼルバと別れた後、グレンは『第一訓練場』に足を運んでいた。

5つある訓練場の中で、ここは兵士たちによる“手合わせ”をする場所だ。

だが、グレンがここに来たのは手合わせをする相手を見付ける訳ではなく、ある人物に会いに来たのだ。


「ウオォォォォッ!!!」


突然の咆哮。


チラホラと手合わせをする者たちの他に一際目立つ集団がグレンに背中を向けて盛り上がっていた。


キンッキンッ‼


刃の打ち合う音が聞こえる。

手合わせを行う場合は木刀が基本だ。

だが、それを好まない人物がこの場所によく出没する。


「〜〜〜〜♪」


グレンが近づくと微かな音量で、鼻歌が聞こえてきた。

人混みの隙間から中の様子を伺うと

キンッキンッ‼キンッ!

「何で!弾き返されんだ!!?」


息を切らしながら必死に剣を振るう大柄な男と


キンッキキンッ‼

「フヒッ♪よわーいかるーいおっそーい」


男の剣を嬉々としながら両手のダガーで受け流すボサボサ銀髪少女がいた。


グレンはその楽しそうな表情を見てホッとした顔で人混みの中を進んで行こうとすると


「これはグレン大尉!こんにちは!」


目の前の集団の中から一人の少年がグレンに声をかけ敬礼した。

それに気づいた近くの兵士たちが「お疲れ様です!!」とグレンに向け敬礼をする。


グレンは「お疲れ様です、私の事は気にしないで下さい」と敬礼を返した。


すると先程の少年がグレンの目の前まで走って来た。

「こんにちはヴェール二等兵」

「こんにちは!大尉!」


ヴェールと呼ばれた少年はグレンに笑顔で返した。


「今日は参加しているのですね」

とグレンが問うと 

「はい!“特等”はもう10連勝しています!」

ヴェールはそう答えた。


キィィンッ!


「11連勝〜!ぬるーいですねっフヒッ♪」


声の先に目を向けると、倒れ込んだ大柄な男の首元に刃を向け少女は笑っていた。


どうやらグレンには気付いていないようだ。


「サイ…━━」


グレンがその少女に声をかけようとしたその時


ザッ!


グレンの右横1cmに大柄な男の持っていた剣が地面に突き刺さった。


「あ!あっ!グレン“隊長”だー!」


振り返った少女は目を細め微笑みながらグレンに走り寄って来た。

━━━ダガーを手にしたまま。


硬直していたグレンもそれに気付いたようで

「サイモンさんこんにちは」と、言いながら剣を引き抜いた。


「フヒッ♪ねぇ!聞いて!“サイモン”11連勝もしたよ!」


言いながら斬りかかるサイモン。


「すごいじゃないですか!…怪我はさせていませんか?」

ギッ!ギギギギッ!


まじ合う刃から火花が散る。


「うん!疲れさせただけ!」

キンッ‼キンッキンキンッキンッキンキンッ‼


ダガーでの猛撃がグレンに襲いかかる。


「良かったです、“今日は”怒られませんね」


グレンはそれを受け流し、後退しながら躱していた。


「それで、今日は何をしていたのですか?」

「フヒッ♪いつも通り見てたんだけど我慢できなくって!フヒヒッ♪参加しちゃった!」

「そうですか体を動かすことは良い事ですからね」


「「アッハハハハハハ!」」


キンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキキンッキンッキンキンッキンッキンッキギッキキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキキンッキンッ━━━


周りは空いた口が塞がらない様子でただ2人を眺めていた。



━━━15分後


2人の手合わせはグレンの剣が折れてしまった事によりサイモンの勝利として終わりを迎えた。


「まぁ当然折れますよね」

「“特等”のは『不折の魔具』ですし…よくもったほうかと」

「フヒッ♪12連勝〜」


レンガ壁に座り3人は訓練の様子を眺めていた。


「って!ゴラァ!!お前は訓練しねぇか!!」

「ぎゃぉぁぁぁ!!」


先程サイモンに敗れた大柄な男がヴェールの首根っこを掴みそのまま連れて行ってしまった。


「ねぇ隊長」


サイモンは“光の灯っていない”金色の目でこちらを見ていた。


「どうしました?」

「もう一戦しなぁい?」

「駄目です。こう見えて私は忙しいので」

「ほんとうは?」

朗らかに笑う

「ふふ、私だって負けるのは嫌いなのですよ?サイモンさんが『不折の魔具』を使わないのであれば話は別ですが」

「フヒヒ♪…じゃーやだー」


光の宿らない月光を想像させる瞳

目元の濃い隈

雪原色の長髪

華奢な身体と腰に肌見放さず携帯している二刀の武装双剣


『戦姫』『戦鬼』『殺戮兵』『悪魔』と呼ばれたり、時偶に『女神』と呼ばれる。


彼女は『コードネーム“サイモン”』


遥か昔、一人の英雄と共に命尽きるまで戦った『剣の女神サイモン』の名を与えられた者。


グレン同様、身元が分かっておらずとある作戦の時戦場に居た彼女をグレンがスカウトした。


階級は“特殊一等兵” 通称“特等”

(※軍の定めた特別階級。【グレンの直轄以外での作戦を一切禁じる。また、班又は組を持つことは出来ない。これに違反した場合、直轄管理下との連帯責任とする】)



「では、サイモンさん。私はこれで失礼します」

グレンがゆっくりと立ち上がった。

「えー…」

「そう残念そうな顔をしないで下さい、明日は時間があるので手合わせをしましょう」


それを聞いてサイモンの目が輝いた。


「フヒッ♪じゃあ隊長の魔具も!?」

「はい、持参します」

「やったー!フヒヒッ♪フヒッ♪」


上機嫌にレンガ壁から飛び立ち、両腕を目一杯広げクルクルと回りだす。


「フヒヒ♪サイモン上機嫌だから木刀で参加してくるね!」


白い歯を見せ笑い手合わせしている男の集団へと手を振りながら走って行った。

グレンも手を振りサイモンが木刀を持つ瞬間まで見届けると背を向け歩みを進めた。



……後ろから聞こえてくる男達の叫び声を背に


グレンが困り顔で頬をかく。


「あちゃ…まぁ次の出撃までには傷は癒えていますかね」


広角を上げ、更に上げる。


《これ、抑えんか》


姿無き声が直接頭に響きグレンを抑制する。

若く、だが圧のある声だ。


「おや、申し訳ありません。


広角を一つ下げた。


《よい、赦す。準備は済ませたのか?》

「ええ、計画通りに」

《そうか。では次の作戦にか?》

「ええ」

《ではこちらもそうなる様に誘導しよう》

「お願いします」

《ああ、楽しみだ…始まるのだな遂に!この時が!》




《復讐の炎を━━遂に…っ!》

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炎ヲカキ消ス火種トナレ 猫部猫 @nekobe_neko

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