FAITHLESS

トザイル

0‐R プロローグ



時刻は午前5時10分、

普通なら太陽が昇りはじめたばかりで、まだ寒いはずだが、ここでは体が震えるほどの寒さになることは、たとえ1月でもありえない。

人の見る角度によって変わる可変型蛍光塗料(夜間から明け方のみ)を用いた道路のおかげで暗くもなく明るすぎることもない適度な明るさの中、絶えず動き回るドローンと動くhIE《humanoid Interface Elements》を避けながら1週間ぶりの日課であるランニングを続ける。

右足で地面を蹴り、一歩進み、そして左足で地面を再び蹴る。足首でバランスを吸収しながら交互に絶え間なく前に進み続ける。こうしてしばらく第3区画スィーパルの端に向かって進んでいると、港が見えてくる。港にはたくさんの日本軍の船(主に砲塔のないおかざりの戦艦)が今日も静かに休んでいる。

そんなありふれた光景を横目に走っているとホログラムで表示されている信号が赤になり歩道の白いラインが次々に消える。それと同時に先ほどまで止まっていた自動運転車が次々と走りぬける。

ペースを落とさないために<通行禁止>と空中に浮かんでいる表示の前で仕方なく足踏みをして待っていると端末にメッセージの通知が来た。自動的に最初の分が目の前に表示される『電子ペーパー100枚よろしく』と。


通行禁止の表示が消え、信号が青になる。走るのを再開しないと、これじゃあまたペースが落ちたことになってしまうな。勢いよく前に出ようとした瞬間

ゴツン

「コラ、またメール無視したでしょ」

後ろから聞き慣れた声と共に、本気で脳天にチョップが落とされた。

「痛ってぇいな、この野郎。チョップはガチでやめてくれってこの前言ったばかりだろ」

頭を押さえ、後ろにいるメッセージをいまだにメールと区別できない奴にそう言ってやると

「あんたが無視するからでしょ。それともグーの方が良かった?」

そう言って拳をグーのカタチにした美来ミライ、俺の2倍の値段の白とピンク色の紐のランニングシューズでつま先立ちしながらこっちを見下した。女子のくせに俺よりも背が高い奴め

「わかった わかったからグーはマジで止めてくれ、頭蓋骨へこむ」

殴られた場所を押さえたまま、青になってからだいぶ時間が経った信号を渡る。もちろん走りながら。

「ヒッドォーイ、あんた かよわい女の子に向かって、よくそんな事、堂々と言えるね」

横からピンクに黒と白の模様が入ったジャージを着たミライが声をかけてくる。

「お前を女子と言うのなら、世の中の男子は普通の女子に抱きつかれただけで大ケガ間違いなしだな」

まったく、なんて一度でも骨を折ってみてから言えよ。

「なによ、抱きつかれるだけで幸せじゃん!」

そう言って、信号機の横に表示されている色が変わるまでの表示されている時間を確認すると、もう10秒を切っていた。早く行かないとまたタイムが遅くなってしまう、急いで走り出すと横に並んだミライが

「ちょっと、用事はどうするの」  『電子ペーパー100枚よろしく』走りながら届いたメッセージを見せてくる。

うざったい事に、ミライにも同じようなメッセージを送られたらしい。

「わかった、わかった。行けばいいんだろ」

仕方がない、今月の使えるカネもそんなに残っていないからお使いで稼ぐしかないか。信号を渡りきると、立ち止まり届いたメッセージに付随する情報を全て目の前に表示させる。

次に目的地をランニングDコースから目的地に指定されていた場所に変更すると、足元から目的地までのルートを示す白いラインが表示される。

これでいいんだろう、まったくメンドクサイな

「ねぇねぇ レイ」

隣で同じ操作をしていたミライが

「せっかくだから、競争しない」

何を言ってるんだ、まったく。お前と俺じゃスピードも体力も違うし。それに

「メリットが全くない」

と言い残し、先に進んだ。

「別にいいでしょ」

ペースを少し上げ距離を離す、それに反応して、ミライもスピードを上げる

「荷物運び! それならいいでしょ~」

「まあ それなら……」

「ハイ、よーいドン」

すぐに手を叩き、全力で駆けやがった。

「おい ずるいぞ」

仕方なくペースを上げる。 

(「明日ランニング一緒に行っても良い?」)

昨日そう言われ、仕方なく今日はできる限り並走して来たのにお前は。

全くどうかしてる。こっちは遊びで走ってないのに―

とりあえず、すぐに追いついき「先行くぞ」と、仕返しに抜き去る。

「待って~よ。ちょっとタイム」

さらにスピードを上げる。

そもそも普段は走ってない奴が1週間ぶりとは言え、毎日何キロも走っていた俺に勝てるかどうかバカでもわかる。

まあ、バカはバカでも上手く操られたバカはかなりメンドクサイが。

それで目的地には確かこっちの方が近道だったかな……… 

すると、間違いを察したのかに進行方向の矢印が目の前に浮かびあがる。やっぱり切らないとすぐに出てくるか。諦めてルートのとおりに従う。

ふと後ろが気になったので振り向くと

ミライがクラスメイトの女子たちとなぜか話をしている。アイツ本当に勝負に勝ちたいのか?

青信号の直前でまたメッセージが来た。今度もミライからで『空を見て、飛行機が飛んでる』

なにをしてるんだ。まったく。

メッセージをすぐに表示から消して白く点滅している歩道を渡り、白色のラインの上を進む。

解っていたが、勝負は当然 俺の勝ちだった。



「お待たせ」

両手にぎっしりと袋に詰まった電子ペーパー50枚入りを二つを掴んだミライが扉から飛び出てくる。

「さっさと帰るぞ」

開いていたタブを全て閉じ、現在時刻の確認をする、今は5時35分。

まだ、学校が始まるまで余裕がある。

全く、朝から付き合わされたこっちの身にもなってくれ。

「ちょっと、一つぐらい持たないの?」

そう言って早歩きでこちらによりながらこちらに視線でチラチラ伺う。

「お前が、あの時無駄話をしなければ勝てたかもな」

それでも無理だと思うが。

「そうそれ、あの時どうして騙されなかったの?」

「やっぱ嘘だったか、花弁ペトルで囲まれた俺たちの暮らしにおいて騒音であったたり景観の乱れになる飛行機は普通に見ることは不可能だ。常識だぞ、というよりこの島に飛行機が来ることなんて滅多にないんだが。帰るぞ」

とにかく先に進む。

「ねえ 100エンで持ってくれない?」

笑顔で、左手を上げて払う気をみせる、

誰がそんな顔を信じるか。

「お願い~半分だけでもいいからさ」

全くこいつは……仕方がないか

「わかったよ、ただし先にカネを払うこと」

認証デバイスの左手を上げる、しかしミライはカネを送らず

「ハイ」

突然、100枚もの電子ペーパーの塊、50枚入り二つを腕に乗せた。一枚当たり軽い電子ペーパーでも意気なり100枚は地味に重みがある。

危ねぇなー 

いきなり渡された所為かバランスが危うくなるがなんとか、膝をまげ、片足を前に出すことでバランスを保つ。アブナイアブナイ

落ち着くと

すぐにミライに対して

「落としたらどうするんだ」

全く、電子ペーパーは軽く扱いやすいのが特徴だが、落下でもしたらかなりの確率でヒビや傷が出来てしまう。特にこの両面タイプはかなり危険だ。前にも落としたら真っ二つに折れたほどだ。

「買いなおせば~?」

空になった両手を頭の上で交差させたまま、こちらの財布事情を考えずに言いやがる。

呆れた。お前は物をどう思ってるんだ。

「あ、飛行機雲」

顔だけ上に向けて先ほどの仕返しとして、試しに同じ嘘をついてみた。

「バカじゃないの、飛行機なんてここからは見えないって零点レイでもわかるでしょ」

当然、引っかからないか。

まあ、引っかかる云々の前に言いたいことは色々とあるが。

常、日頃から〈真実を見るように〉ってお互い言われてるのにな。

この島は、嘘で隠された場所だ。

世界各国でも今日こんにち、ホログラムや拡張現実と言った技術によって嘘を混ぜ合わせることに成功した場所はたくさんある。

それ以前に人のカタチをした人形<hiE>や人を超えた頭脳<超高度AI>と言ったフィクションの存在であったモノがヒトの社会にひどく密接したものが存在する21世紀末。この島はそんな世界とは少し違ったで独自のシステムで現実に嘘を混ぜ合わせた一つの人工島メガフロートである。


まあ、現実に混ぜた嘘と言っても実際に目の前にあるんだけどな。

そんな事を思っていた所為か、足元に注意がむかず、舗装されたばかりのアスファルトにつまずいてしまった。その衝撃で片手に電子ペーパーを100枚も持っていたことに気が付かず手から袋を落としてしまった。

ゆっくりと落ちていく袋。そこからあふれ出る電子ペーパー、どちらも重力に引かれ、地面に叩きつけられたと同時にピキッと割れた音が聞こえた。

やらかした、これで今月分のお小遣いは無くなったな。

タメ息を漏らしながら、屈んで袋にヒビの入った電子ペーパーを拾うことにする。どうしてこうなった。

一枚、二枚とヒビの入っている電子ペーパーを数えるが、すぐに諦める。

あまりの多さに信じられず、目を深く閉じる。



「大丈夫ですか?」

声に驚き、閉じていた目を開けると目の前に袋を持った綺麗な手が電子ペーパーを拾っていた、

「えっと、その、ありがと……」

感謝の言葉を言おうと、頭を上げて顔を見るとあることに気が付いた、これはhIE≪インターフェイス≫だ。

整った顔立ちに、人間にはありえないきれいな爽やかめのオレンジと白色の髪の頭部の上に、赤色。オーナとの契約済みの印である赤色の輪っかが浮かんでいる。

「アリネ、何をしている」

声の方向を向くと、契約者オーナーであろう厚手のコートを着た大柄な男性が近くによって自分のモノを呼んでいる。

「割れやすいので、気をつけてくださいね」

そう言うと、いつの間にか拾い終わった電子ペーパーの入った袋をそっとこちらに渡し立ち上がった。俺は屈んだままだったのでそのまま、そのhIEの下半身を目に入った。伸縮式の白いヒールに、黒いストッキング。そしてあふれているオレンジ色の光に気が付いた。下半身を見られていると気が付いたhIEは破れていたストッキングの上に手を乗せ、そっとなぞる。すると不思議な事に破れていた部分が修復される。

「今見たことは、秘密ですよ。」

腰を屈めて 人差し指を口元に当て、片目をつぶり、ニコっと笑ったhiEはこちらに向かって警告、いやお願いをした。

そこにいるのはモノ<hIE>だと俺は知っている、だが俺の中の何かがこの女性<hIE>

20代前半の大人っぽい感じに、あどけなさを少し残した小悪魔的な女性に魅了され、その人がモノであるという考えは一瞬で頭の端に飛んで行ってしまった。


彼女に渡された袋に入った電子ペーパーは、落下の衝撃でヒビが入っていたはずだがなぜか袋の中を見るとキズ一つなかった。

不思議に思ったが端末にあらかじめ設定していたタイマーが学校の登校時間が迫っているタイマーを鳴らしていた事に気が付き、急いで戻ることにした。

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FAITHLESS トザイル @tozail

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