4 美邦の知りたいこと

美邦が帰って来ると、ソファにぐったりと坐り込んだ啓が目に入った。


啓は先日、詠子に付き添ったまま帰ってこなかった。家の中に詠子の気這いはない。家の中に充たされていた生活感と言おうか、そういったものが無くなってしまったかのようだ。


「ああ、美邦ちゃん、おかえりなさい。」


啓の言葉に、ただいまと美邦は返事をする。


「叔母さんは――どうされたんですか?」


「入院することに決まったよ。」


ほぼ予想通りの返事だったものの、落ち込まざるを得ない。


「――すみません。」


「いや、謝ることはないさ。」慌てたように啓は言う。「これは誰のせいでもないんだ――精神の病なんだから。」


そうはいうものの、納得のできる話ではなかった。


「叔母さんは――今、どんな感じですか?」


啓は、急に難しそうな顔となった。


「非定型精神病というやつらしい。美邦ちゃんを殺してしまったと今でも思い込んでいる。自分が病院に連れて来られたのは、警察から精神鑑定を受けるためだと考えているらしい。医者によれば――単純な病で、普通ならば数ヶ月のうちに治ってしまう場合が多いそうだ。」


それを聞いて、美邦はほんの少しだけ安心する。


「とりあえず、家事はみんなで分担しよう。ご飯を食べ終えたら、千秋も交えて、そのことについて話し合うか。僕は台所のことはよく分からないから、晩御飯は出前でも取らあや。」


「――はい。」


一応はうなづいたものの、美邦は気が気ではなかった。


「あの――私、本当にいいんですか? この家に置いてもらっても――」


啓は呆気に取られたような表情をしていたが、やがて軽く溜め息を吐く。


「僕は全く構わないよ――美邦ちゃんは、この町にいなければならないのだから。今はまだ、詳しくは話せないけれども――美邦ちゃんが疑問に思っていることや、知りたいことについても。」


美邦は呆気に取られた。そして、冬樹の言っていたことが正しかったらしいことに今さら気づく。平坂神社について調べている人々というのは、ひょっとしたら意外と近くにいたのではないか。

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