9 明け方の夢

その翌日の明け方、美邦は夢を見た。


夢の中で、美邦は二十代後半の女性であった。飾り気のない薄暗い木造の宮殿の中、死期を迎えんとしていた。


そのとき美邦は、共同体の指導者的な巫女であった。稲の実り具合を祈り、豊漁を願うのが仕事であった。寄神を祀るのに最も適した感性を美邦は持っていた。


夢の中で美邦は死んだ。その一瞬、海の向こうへと飛んだような気もする。しかし生を終え、目を閉じた次の瞬間、美邦は再び目を開けていた。自分の部屋の布団の上で、目を覚ましたのだ。


時計に目を遣ると、五時を少し廻ったところであった。


枕元のメモ帳に手を伸ばし、たった今見たばかりの夢を書きつける。思い出すことを一つ書くごとに、夢の記憶は次から次へと蘇ってきた。夢の中で、美邦は美邦ではなかったのだ。けれどもそれは同時に、間違いなく美邦自身であった。


書き終えると、恐る恐るカーテンを開けた。当然ながら、築島の遺体は既に取り払われている。いつもと変わりない風景に少し安堵した。


窓の外では、伊吹山の端正な稜線に朝靄がかかっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る