2 苦みのある朝

十一月十七日月曜日――何か気がかりな夢から冬樹は目を覚ました。


目覚めると同時に、それがどんな夢であったのかほとんど忘れてしまった。不幸な夢のようでもあれば、逆に幸福な夢であったような気もする。


上半身を起こす。


身体に違和感を覚えたのはそのときだ。口の中には少し苦味もある。胴に手を当て、どこに違和感があるのか探った。どうやらそれは、胃の右上、ちょうど肝臓のあたりらしい。


冬樹は先日、人体の構造についてインターネットを使って調べていた。背中から覚える違和感の正体について調べるためだ。やはりというべきか――どうやらそれは腎臓のあるあたりらしかった。


そのときに見た人体図を思い出し、しばし考える。


腎臓より少し上の辺り――今日はそこから、何かがなくなってしまったような感覚がする。ここにあったのは――確か胆嚢ではなかったか。


無論、臓器名が分かっただけでは、何の役にも立たないが。


尿意を覚え、冬樹は部屋から出た。


腹の中が気持ち悪かった。吐き気とは言わないまでも、何か淀みのようなものが胸のほうへ突き上がろうとしている。


トイレへと這入り、用を足す。


便器へと流れた自分の尿を目にし、戸惑いを覚えた。


尿そのものが、微かに泡立っていたからだ。まるで炭酸の入った清涼飲料水のようだ。


どうやら本当に腎臓はなくなったらしい。


腎臓とは、すなわち体内の不要物を濾過する器官である。それが損傷した場合、尿に気泡の混ざる場合があるという。これから冬樹の体内には、濾過されなかった不要物が日に日に溜まってゆくに違いない。


再び、気持ちの悪いものが腹の中で動いたような気がした。


トイレの水を流し、台所へと向かう。


気温は日に日に下がっている。寒さで凍え死にそうだった。


台所のいつもの席に着き、爪先を石油ストーヴへと当てる。右足の爪に負った傷はいまだ治っていない。


「冬樹、早く支度しちゃいんさい。でないと、遅れるが。」


早苗にそう言われ、冬樹は「うん」とうなづいた。


うなづいたあとで、少し後悔した。


気分が悪いことを訴えるべきだったのだ。


しかし、それだけの気力が今の冬樹にはなかった。それは最近、早苗の言動が少しずつおかしくなっているせいでもある。加えて、今日もまた休んでしまえば、美邦に心配を掛けてしまうのではないかと思った。

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