5 冬樹のデスクトップ

茜差す夕暮れ時、冬樹は家へ帰って来た。


日が短くなるにつれ、冬樹の不安も増大してゆく。


――神祭りの夜には外へ出てはならない。


御忌の日に実際に外に出て、死んだり行方不明になったりした者がいるという。平坂町の夜は、そこまで酷いものではない。けれども、神祭りの夜が、薄く長く引き伸ばされているかのようである。


――まるで、戒厳令でも布かれているかのような。


やはりこの町は少し異様なのだなと、今さらのように感じる。


家へと上がり、手洗いとうがいを済ませる。


自分の部屋に鞄を置き、居間へと向かった。


ネットで調べたいことがあったため、パソコンの電源を入れる。静かな起動音がして画面に黒い明かりが灯った。じきにそれは藍色の画面へ変わる。冬樹はパスワードを打ち込み、自分のアカウントへとログインした。


異変に気づいたのは、そのときだ。


冬樹のアカウントのデスクトップは、初期設定のままいじっていない。いつもならば、そこには製造会社のロゴが表示されているはずであった。


しかし、今は一つの奇妙な写真が画面いっぱいに拡がっていた。


一本の枯れ木が上下逆さまに写っていた。しかも逆光で真っ黒だ。背後には、夜明けとも日没とも取れる風景がある。上半部は濃い藍色に、下半部は濃いオレンジ色に染まり、グラデーションとなっていた。


恐らくはどこかの風景を写したものであろう。けれども自然の風景をそのまま写したとは思えない。加工したものなのか、描いたものなのかは分からないが――どこかしら不自然で不気味な印象を受ける。


当然、アカウントにログインするためのパスワードは冬樹しか知らない。となれば、誰がこの画像をデスクトップに貼ったのであろうか。


こんな――気味の悪い画像を。


ふと、冬樹は窓の外が気にかかった。


どこかから、何者かから覗かれているように思ったからだ。

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