2 叔父夫婦への不信
自分の部屋に篭り、美邦は考え事をしていた。
自分は平坂神社の宮司の家系なのだ。冬樹がコピーしてきた死亡記事には、自分の母親の名前と、平坂神社の住所が書かれていた。
――だが。
なぜ叔父夫婦は、その神社の存在を知らないと言ったのだろうか。
よく考えてみれば、昭は渡辺家の長男であったはずだ。言うまでもなく、長男というのは婿入りしにくい。しかしそれができたのは、相手が由緒正しい神社の家系だったからではないのか。
その点について、美邦は是非とも啓に問いただしてみなければならない。
――はずであった。
実際、学校から帰って来てからは、そのことについて何度か啓に訊ねようとした。しかし、その度に美邦の気力は殺がれた。
なぜならば――啓の隣には常に詠子の姿があったからだ。
美邦が神社について知りたがっていることを、どういうわけか詠子は快く思っていないようだ。
そうでなくとも、美邦は詠子と波長が合わないのを感じている。引っ越して来たときから、対話にぎくしゃくとしたものは感じていた。共に暮らすようになってからは、妙に馴れ馴れしく感じられたり、
そんな状態で、詠子が喜ばないことを言うのは気が退ける。
廊下から跫音がして、襖の向こうから千秋の声が聞こえてきた。
「お姉さん、お風呂、空いたよ。」
「――うん。」
美邦は箪笥から寝間着を取り出し、風呂へと向かう。
この家では、家族が風呂に入る順番は決まっている。順番に、啓、詠子、千秋、美邦だ。啓の帰宅が遅くならない限り、この順番を乱すことは詠子が許さない。
脱衣所へ這入り、三つ編みを解く。
服を脱いでいるとき、右耳の奥に突如として鈍痛を感じた。美邦は右耳を押さえ、前かがみとなる。やがて鈍痛は和らいでいったものの、今度は背後に何者かの気這いを感じた。
思わず振り返る。
そこには、擦り硝子の嵌め込まれた窓と、真っ暗な闇しかなかった。
気のせいか――と思い、美邦は擦り硝子から目を逸らす。しかし再び悪寒を感じて、背後を振り返った。磨り硝子の向こうに何者かの存在があって、こちらへ目を向けているイメージが頭の中に浮かんだ。
それは、闇夜に溶けるように遠ざかってゆくもののイメージでもあった。
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