第四章 寄神
1 郷土史家への電話
「はあ――平坂神社のことについてお調べですか。」
電話越しに聞こえてきたその声は、しゃがれた老人のものであった。
冬樹が郷土史家の連絡先を知ったのは、火曜日の放課後のことである。学校から帰ってくるとほぼ同時に、田代から電話があった。
郷土誌下の名前は、菅野というのだという。
冬樹は田代に礼を告げ、さっそく菅野の家に電話をかけた。
「ええ――。図書館の人に訊いてみたところ、郷土史家の方がおられると聞いたので、お電話させていただきました。平坂神社と、そこで行われていたという神迎え・神送りについて、いくつか訊きたいことがありまして――今、お時間はよろしいでしょうか? ちょっと、長めの話となってしまうかもしれないのですけれども。」
菅野は、ううん、と困ったような声を出した。
「なにぶん、私は歳のせいで身体が不自由でしてね――。平坂神社に関する資料ならば部屋にたくさんあるのですが、それを見ながら電話を掛けるのは辛いのです。」
どういうわけか今日は電話機の様子がおかしい。受話器からは激しい雑音が聞こえている。菅野の声も随分と聴き取りづらいものであった。
ならばどうしたらいいのであろうと考えていると、次のように問われた。
「学生さんですか?」
「はい。今、中二です。」
「ははあ、お若いですなあ。――学校の課題か何かですか?」
「いいえ、ちょっと、個人的に気になっていて、調べているだけです。」
「それでしたら、学校がお休みのときにでも、家に来られてはみませんかね? 写真などもありますので、実際にこちらへ来て見ていただいたほうが解りやすいと思います。」
「あっ――。ありがとうございます!」
思わず頭を下げる。
「あの、できればクラスメイトも誘いたいんですけど、大丈夫ですか? 彼らの予定を確認してから、折り返しお電話を掛けたいと思うんですが。」
「ええ、全く構いませんよ?」
それから菅野は、土曜日でも日曜日でも特に予定はないので、そのどちらでも訪れていいと言った。折り返し電話をすることを約束し、冬樹は受話器を置く。ただ電話を掛けただけなのに、妙な達成感があった。
それにしても――と思う。
市役所の不親切な対応が今さら気にかかった。郷土史家がいるならいると、そう教えてくれればよかったのだ。それとも、お役所仕事とはそういうものなのだろうか――冬樹には判断できなかった。
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