6 電柱の影

十一月十一日火曜日、何か恐ろしい夢から美邦は目を覚ました。


心臓がばくばくと鳴っている。布団に仰向けのまま呼吸を整えた。まだ日は昇り切っておらず、窓辺のカーテンは藍色に染まっている。時計へ目を遣ると、時刻はまだ五時前であった。


目覚まし時計が鳴るまで寝ていようかとも思った。しかし、夢の内容をメモするよう冬樹から言われていたことを思い出す。枕元のメモ帳を掴み、夢の内容を書きつけた。まだ寝起きのこと、文としては支離滅裂なものだ。それでも、できるだけ詳しく書き記そうとする。どうせあとで清書するのだから。


夢の内容を思い出したり、それを書き記したりしているうちに、部屋の中が少しずつ明るくなってきた。悲鳴が聞こえてきたのは、そんなときだ。


どうやら窓の外からのようであった。


中性的な声をした若い男性の悲鳴である。どこか聞き覚えのある声だ。


美邦は窓のほうへと顔を向けた。窓は東側にあるので、部屋の日当りはいい。起床したときよりも、カーテンはほんの少しだけ白くなっている。そこに、何やら大きな影が写っていた。窓からあまり遠くないところに、何かがぶら下がっているようだ。


美邦は窓へと近寄る。どうせまたよくないことが起きているに違いない。それでも何が起きたか確かめざるを得ない。美邦は恐る恐るカーテンへと手を伸ばした。その右腕は、まるで麻酔でも掛けられたかのように、動きも、感覚も、鈍かった。


一瞬だけ踌躇い、ゆっくりとカーテンを開ける。


それは、美邦の視界へとすぐに飛び込んできた。


窓の近くにある電信柱――その変圧器から、首を吊った大人がぶら下がっていたのだ。顔はまるで、厭がらせのように美邦のほうを向いている。その苦悶に歪んだ顔は、美邦の知っているものであった。

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