六十一の節 鬨の奮え、風の謳い。 その一
翌日、
簡易暖房器具、要は焚き火で暖を取っている
「ここからの朝焼け風景も、悪くないな」
「
「
「確かにな。切り立った山間に湖に、街へ注ぐセロー河。湖岸に張り付くように立ち並ぶ、小鳥みたいな色をした店舗や住居。思えば、住めば都だったな」
寒さで鼻の頭を赤くした
「素敵な所ですね。いつの日か行ってみたいです」
「今は、どうなってるんだろうな。敗走してから何度か満月を経たし、
南下する紫の蛮族を迎え撃つために、戦闘要員は毎回
北壁戦線と呼ばれる指定激戦区のヴェクスター・ライヒ州と景勝地のカンテ・シュタート州を直線で繋ぐ、最短直線距離で
その堅牢な扉を、
戦線を張っていた時間へ思いを馳せているのか、
「それはそうと、俺を〝
「カヤナ大陸にも
「海を越えて、俺の噂が流れているとはねぇ」
「それと、個人的に確信する件が二つ」
「ほう? 何だい」
「一つはそちらの、お付きの方が身に着けていらっしゃる飾り帯です。実家で手配した、ドルルフ
思わぬ所で身分証明の役に立っていた事に、控えていたメイケイとウンケイも、黒い瞳が驚きの色に変わっていた。
「もう一つは、鈴蘭の割り符をお持ちだった事です。しかも、飛び切り上等の〝黒い鈴蘭の女主人〟の
「は? あれって、そんなに凄いモンなの?」
「え?」
「え?」
「冗談は、お止めください。あの割り符は、おや?」
「承服しかねる。野砲と馬を下げるなど正気の沙汰ではない。我々に降伏を促しているのか!? ヴァリー、この客人の意図は何なのだ!」
「ヴァリー、話しが通じていないぞ。どう言う事だ?」
上官と客人に挟まれたヴァリーが、バスカとアラームの後から追随している。
「諦めろ、バスカ殿。軍事機関は、都市国家における最重要機密の一つだ。安易に部外者を招き入れた時点で、偉そうな物言いなど出来ないと言う事を今日をもって教訓とされよ」
アラームの言葉を受けたバスカの表情は、身長差も手伝い下から
「納得など出来るはずがない。音に敏感なラヴィン・トット族と、その
「現実は、撤退させただけだ。撤退後、相手方は陣を崩してカネル君主都市へと帰ったのか? 違うだろう。軍使を派遣し、陣を組み、特等席で君主が戦況を臨む席を築く余裕まである」
アラームが並べているのは、先日帰参したハニィとシシィからもたらされた情報の一部だ。これらはテフリタ・ノノメキ都市とアラーム側が同時に同じ場所で文書化し共有された物だ。
大盤振る舞いで相手を持ち上げ、テフリタ・ノノメキ都市の面目を立てる事にもなった。あくまでも、テフリタ・ノノメキ都市の恩情によって、諜報活動が叶ったと言う名目でもある。
「音で追い払っても、危機は去る事はない。アラームの案を取れば、ウサギさん達に多大な被害が出るのか」
「このまま
独白を拾ったアラームの言い様に、臆面もなく
「焼き
「あの連中と一緒にするな! 俺は人間なんて喰わねぇよ!」
突然、感情を跳ね上げた
「ラヴィン・トット族を食べろとは言っていないが、
口元しか見えないアラームの整い過ぎる唇は、遠慮のない薄い笑みを引く。
「そもそも。カネル様に指名された俺達が、素直にカネル君主都市陣営に行けば、物騒な事にはならないんじゃねぇの?」
「愚か者」
間髪入れず、アラームは
「北壁戦線で紫の蛮族を数え切れない程に
反論するため、薄い唇を開こうとする
「交渉と言うのは、どちらにせよ圧倒的な優位が保たれた上で行うものだ。相手が反抗も構想も起こさせない程の抑止力を背景とする。あるいは政体も国体も砕き、ねじ伏せる材料を用意しなければならない。呼び付けられ、進んで玩具になる
アラームとバスカの一行から遅れ、ようやく丘陵の登頂区域へと着いたカーダーとレイスは、言葉を包まないアラームの言葉で迎えられた。
それに対し、付属する正論に反抗出来ず不満だけを燻らせ、
「では
「はぁ!?」
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