五十六の節 無い腹の探り合い。 その一
テフリタ・ノノメキ都市の外側で活動する、討伐大隊の所属を表す青い軍服。着用しているのは、何も男性やヒト族に限られた事ではない。
青い軍服姿のヒト族の女性隊士に連れられ、軍使は着替えのため別室へと向かった。
「お客人、別室で着替えさせるのは、危険ではありませんか」
アラームの膝辺りから、口調は堅いが円熟した艶のある女性の声で問い掛けが立つ。軍使の着替えと移動は、アラームが提案を押し通したためだ。
「安心して欲しい、隊士殿。この
先程の軍使と
白い手を隊士に向けて差し伸ばしたのなら、上流階級女性の
「ほぉ? ラヴィン・トットの特質に詳しいばかりか、このカヤナ大陸で不自由なく
アラームと同じくらいの長身だが、厚みがある隊士が
「そう言えば、カヤナ大陸はスーヤ大陸のように
「
アラームの言葉を差され、ザラついた声で悪態を返したのは
そのまま無言を通すかに思われた
「お前さん、あの軍使を勝手に閉じ込めてどうするつもりなんだ」
「どうするも何も、テフリタ・ノノメキの軍属でもない我々を、最前線に迎えてくれたウェルグ・ヴァリー中隊士長殿に協力するだけだ。私は、こちらの
「あ~、その事なんですが」
昨日、名乗った通りの名前をアラームに連呼された本人が、席から立ち上がり人口密度が高い場所へ緩やかに歩み寄る。帽子を浮かせ、灰色の頭髪を掻きながらヴァリーが歯切れも鈍く発言した。
「アラーム殿に、尋問権を譲ろうと思います。オラっちより弁が立ちそうですし」
このような言い草ではあるが、噂でしかない
「軍人としては失格発言ですがね、女王様気取りのチェーザリー夫人が譲らない無抵抗作戦で、これ以上部下を失いたくないんですよ」
手持ちのメモ帳に集中していたはずのレイスが上げた顔には、驚きを込めたような表情が浮かんでいた。カヤナ大陸と言わず、スーヤ大陸にも届く勇猛さと市民愛が高いテフリタ・ノノメキ都市防衛の要を担う現場の言葉に対して、反応を起こしている様子だった。
「何か良い案があるなり、あの軍使から有益な情報が引き出せるのなら、
破格以上の期待を込める言い方に、装飾品が立てる音に遠慮を
「オヤジ、じゃなくて上司には上手く伝えさせて
土地柄の影響もある。古くからカヤナ大陸に住む
普段から上官を〝オヤジ〟と呼び、部下を我が子を呼ぶような付き合いは、規律正しいスーヤ大陸の軍人と比べると、残念ながら文明秩序の高さに加え公共性に欠けると言えた。
「アラーム殿は、あの軍使殿をどうされる算段で? 参考までにお聞かせくださいな」
「可能な限り、送り込まれた目的に関わる情報を吐いて
「殺すのか?」
アラームとヴァリーとのやり取りの間に、
「最終手段は、そうなるよ。とは言っても、人的資源は有限だ。出来れば寝返ってくれるように誘導する。出来ない者を世話するより、出来る者を世話をする方が効率的だ。関係を保つための
アラームの
そこで、言葉を閉じた端整にも程がある口元から小さな笑みの息が零れる。
「な、何だよ」
「これは失敬。紫の蛮族、
憎まれ
「俺は何と呼ばれようが、用意され向かって来る相手を始末するだけだった。そのお膳立てのために、あんなに可愛いハニィ達や兎ちゃんが生命を
「どうした
アラームの口元しか見えない表情は、至って生真面目に映る。特に
旅路の中で
「
少々の間が空いた後、アラームは無神経にも似た発言を
「いくら好いた相手だろうと、皮にしてまで一緒に居たいとは思わねぇよ」
「悪い、外の空気にあたって来る」
自身の言動や変化に戸惑っているのか、作り出してしまった場の空気に耐えられなくなったのか。
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