三十五の節 働くと言う事。 その三
古典様式の石造りの回廊は、多種多様の職種と人々が目的を持って
辺りは、すっかり夜が染め上げる空間となった。
その一方で、
「何、コイツ」
アラーム達が立ち去り、
「私の財布を盗もうとしたのです。すぐそこの、貧民街の少年らしいです」
サルダン族の大豪商・カーダーが答える。大きな耳が前に垂れ表情が見えないが、犯罪に巻き込まれた割りに、口調からは少年に対する不快感は聞き取れない。
「う、うわあああ!
少年は、
「おいおい。ここの救済院は、どんな教育を実施てるんだ? この俺が分からない上に、誰に断って口を開いてるんだコラ」
「俺を誰だと思ってるんだ。泣く子がもっと泣いて引きつけを起こす、
「
尊大に名乗る
なのに、この有様だ。
その様子に気付いたマリサが、勘を働かせた言葉を伝えた。
「息子から事情を聞いた、メイケイとウンケイ。それに、とんがり帽子の坊ちゃんが、追加物資と一緒に来てくれたのよ。負傷者の搬送と、治療を手伝ってくれているの」
「俺にも、協力支援の腕章を貸してくれないか」
「
マリサは、
「気を悪くするかもしれないけれど、今夜が今夜だけに皆、過敏になっているからね」
「そんな事は、生まれた時から分かってるよ。アイツらがいるなら動くしかないだろうがよ。アンタに、タダ飯喰らいとか言われたくねぇし」
苦笑するマリサから腕章と聖職帽を受け取り、
「それにしても、都合良く聖職帽なんてありましたね?」
歯並びが良い健康的な笑みを浮かべ、カーダーがマリサに問う。
「ここは救済院よ。予備の法衣くらい、たくさんあるわ」
目尻の
昼間とは違う明度に、少年の顔色の悪化が見て取れる。骨折による貧血と
「仕方ない。ほら、水と薬だ。全く、あのアラームに殺されなかっただけ、マシだと思え」
不調を抱え、顔を上げた少年が視界に入れた姿は、茶色い短毛種。犬の頭を持つ半獣人、ニンゲン属ビヨ種モモト・オト族のワルテル・レッセ・クトロが、鍛えられた大柄な身体を
少年の口をこじ開け、少々乱暴な方法で水と薬を放り込み、
「に、苦いっ。ゴッホ、ゲホホッ」
「さぁて。どうしましょう」
少年が
「国では、牛裂きの刑ですね。こう、首と両手足を縛った先に
自国の刑罰を軽く説明するカーダーだったが、事情を知る面々は、驚愕の表情を向ける。
「カーダー、自国の事を他国で話しをするのは御法度じゃなかったの?」
代表してマリサが尋ねるが、当のカーダーは大きな耳のせいで、奥にある表情は見えない。
「では、聞かなかった事にして下さい。軽く言い放った自身の言葉が、どれ程に愚かだったのか。この少年に伝わるのなら、
宝飾品が重なる音をさせながら、カーダーは危機感が薄い態度を取る。
カーダーの思いを腑に落としたらしく、カーダーに対してこれ以上の質問は重ねなかった。その代わり、マリサは改めて泥棒少年に問い掛ける。
「貴方、名前は?」
「シイナ」
「素敵な名前ね。響きが、カヤナ大陸だけど、お父さんか、お母さんの国なのかしら」
「知らない。父さんなんか見た事ないし、母さんはずっと前に死んだ」
「そう。気の毒だったわね」
「じゃあ、今すぐ離せよ! ついでに、そのブタが着けてる宝石を
少年の暴言は、歴史を重ねた壮麗な回廊の一帯に響き渡った。
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