三十四の節 働くと言う事。 その二
「折角、満腹だったのに消化してしまった。念願の
新たな
「
「
茶化すアラームの左側には、
「一人だけ綺麗な
「
「空腹は満たしてやれないが、風呂上り状態に戻してやるよ。
「下がれ、アラーム。我が
アラームの背後から、
一体、この常識外れの美の共演に何の意味があるのか。説明もなく勢いに押され、されるがままになっていた
やがて、文句の一つでも言おうとしたのか。
「そら、
低く、甘く。黒蜜が溶ける声に問われ、
一度染まれば、決して落とせない
「な、何が起きたんだ、これ。風呂上りよりも爽快なんだけど」
常軌を逸した現象に、少なからず
「
「アラーム。マリサがいるぞ。合流するか?」
「そうだな。今からでも手伝える事もあるだろうし、この辺りは物騒だからな。護衛を買って出よう」
「承知した」
アラームも慣れた様子で受け容れた。二名の会話によって移動先が決まったが、見返りに未練がある
◇◆◇
フローリオは南のシャンドル港を要として、放射状に八本の大通りが内陸に向かって走っている。多少、湾曲しながらもフローリオの境界線とも言える城壁は半円を描く。別名、貴婦人の絹扇と呼ばれていた。
八本の大通りには聖人の名が冠される、救済院が象徴として建造され人々の秩序と信仰を支えていた。
東側から三本目の大通り。今となっては最も城壁に近く、最も広大で古い歴史を持つ
日々においても、果たす役割は大きいものだ。
すぐ
伝染病を媒介する鼠や害虫が、昼夜を問わず彼らとの共存と活動領域を主張した。
貧民街の治安は当然悪く、犯罪行為は日常だった。救済院からの援助が、たまに滞る理由は根本的な問題に触れず、互いに境界線を引いている事に気付いていない事だった。
今夜の
「物を奪って何が悪いんだ!」
フローリオと冠する同じ街であるはずの境界線区画で、事件は起きていた。十代前半の少年が、窃盗の犯行現場を押さえられたのだ。
半円を描く人垣に囲まれる中、悪態をつく少年は
そこへ、前触れもなく人垣を割り現れた黒装束の人影から伸びた長靴の底が突き出て来た。
作用点でもある立てていた少年の
少年は
「い、いきなり何すんだよ!」
ようやく非難の言葉を口に出来た少年は、縛られた体勢のまま苦悶の表情を作り上げる。
「差し詰め、歩く自由を奪ったと言う所かな。奪うのは、悪い事でも何でもないんだろう?」
口元しか見えない、アラームの端整な部位が嘲笑を浮かべ見下している。
「綺麗に折れている。下手に動かなければ元通りに接着し、強度も増す」
濃い金色の
「
空腹で、不機嫌を増した
「相変わらず乱暴ね。でも、アラーム達が来てくれたと言う事は負傷者の波も終わるわね」
淡い
現れたアラームの言動に対して驚かず、事情をも汲みする物言いは当然だった。
「もう一つ頼みがあるんだ。だから、手伝える事があれば動くよ」
もう済んだ事。そう言わんばかりにアラームは少年を置き去り、マリサに尋ねる。
「あら、嬉しい申し出だわ。負傷者の回収と、治療をお願い出来る?」
「承知した」
「待って、協力支援の腕章を着けてね。
「我は、アラームの
マリサから協力支援の白い腕章を受け取る、白と黒の長身を眺める者がいた。
巻き込まれるだけの日々に身の置き場を失い疎外感が満ちて来たのか、表情に影が差しているように見える。
「アラーム。肩掛けを預かりましょうか? 作業の邪魔になるでしょう」
場違いな程、華美で仕立ての良い異国の衣装に身を包むサルダン人が、アラームに提案して来た。
「預けるだけだぞ。後で返してくれよ」
唯一、表情の判別が叶う整い過ぎる口元。そこに冗談を添える笑みを描き、アラームはベルトを解いて肩甲ごと相手に預けた。
「美術的価値がある
「まさか、
マリサから受け取った腕章を既に巻いている赤い布の上から、着用しながらアラームは応える。
サルダン人が動く
大きな耳が前方へ垂れて顔面を覆い、上を向く鼻。
古くから海洋航路を開拓し、真珠と香辛料の国から文字通りの交易の品々を、独占流通させる生粋の商人集団。ニンゲン属シシ種サルダン族の大豪商カーダー・マッカン。
夕方には
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