二十五の節 根無し草の行方。 その二
「バローツさんと他の兵隊達は、どうなりました?」
落ち着きを取り戻しつつある
「生きている。だが、こちらに気付いて寄って来られると面倒だから移動するよ。
「どうするも何も。崩壊した
思案しつつ頭を掻きながら、
「いつ死んでも、おかしくないんだよな」
欠ける月を見上げながら、
「安心しなよ。ボクが、
「決めた」
「俺は、美味い物を食ってから死ぬ」
「悪くないな。何が食べたい?
アラームは、
「サン・バステアンの、ラメン。美食と芸術の都・フローリオの、大地の真珠と海の白肉料理。トルタ・アルー・チョコラータ。蜂蜜ドルチェ。それと、カヤナ大陸の水を飲みたい」
カヤナ大陸に至っては、スーヤ大陸の東に広がる
「行き先が見事に散っているな。他には? 行きたい場所や、会いたいヒトは?」
「これだけは外せねぇ。プラッティン・マクシム・カネル様に
傍若無人を絵に描き、荘厳な額に収められているような
「それは同感だ」
アラームは背後に白い手を回し、筒状の物体を取り出す。グランツの渡航免状を持っていると
グランツは、
カヤナ航路、香辛料と真珠の国の上半期航路、スーヤ大陸の南側航路を押さえている。他にも、スーヤ街道の一部、脇街道と言われる複数の交易路を保護していた。
要するに、この免状を所有する一行は、グランツ家に身の証しを無条件に保証される。検問所、乗船、面会の手続きすら不問で通過出来る代物だ。
「ただし、条件がある」
「おいでなすった。美味しいばかりの話しの方が怖い」
「我々は、路銀がない。必要経費は
「手打ちとしようじゃねぇの。渡航免状の恩恵にあずかるのは、
「コレを使ってくれ。バラせば路銀の足しになる」
「大丈夫なのか? これ、
「もう、廃業だ。意味ねぇし」
「では、遠慮なく」
アラームは、言葉通り後腐れもなく受け取り、周囲の視線を集める程に分解した。
一般的な
質素こそが、祈りと真実の根幹に近付ける。
元より、
向けられる祈りは、先述の二重山羊十字か、
本質が淘汰された結果、
最新の施工技術。最新の細工と装飾。最新の素材が集まり、最高級で溢れる事になる。
「この帯は、御守りとして二人に巻いておこう」
「こんな怪我を負うような事態にならないように、な」
昼間よりは優しく。それでも、夜の闇を切り裂き力強く照らす、満月へ近付く月明かり。
その下で、アラームの
「かなり明るいからな。闇に紛れてとは言い
「ウッソだろ、お前! この状況で夜通し歩けってか!?」
「心配するな。
不本意な提案に
背に送った黒い
「じょ、冗談じゃねぇぞ。誰が、そんな真似出来るかっ」
悪態をつきながら、ソル・グラオン街道に出るために
「当分は大丈夫だな。
「やった! 有難う御座います! 馬に乗るの初めてなんです。楽しみだな~」
「おいっ、俺の分も忘れんなよ!」
前方を歩き進んだ
「耳が鋭いな。これは気を付けないと」
本気か冗談か、判断しにくいアラームの一言を合図に、人種も目的も様々な一行は出発した。
東は、
西の終点から、サン・バステアン港湾都市へと快適に繋ぐ街道は、ソル・グラオンと名付けられている。
秋の季節が一つ過ぎた。季節感を失った荒涼と開けた土地に、大小を合わせ六つの影を落としながら、悔いのない旅路が始まった。
【 次回・第三章
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