第三章 糧を得る世界
二十六の節 サン・バステアンの攻防。 その一
夜の闇を控えた街道の
「
一行は途中、羊肉の塩漬けを納品するために街へ向かう荷馬車を盗賊から救助していた。目的地も同じと言う事もあり、ついでに護衛を買って出たのだ。
徒歩だった一行。目的地は同じ。荷馬車の
この帽子状の被り物は、カヤナ大陸の騎馬民族・スクマ族に
ちなみに。今、乗っている荷馬車を助ける際。離れた隙に、
さらに説明を加えると、アラームの長身に合う馬がない。その上、何度も試みたが馬がアラームに怯えてしまい、騎乗も出来ない有様。
大型の犬であるはずの
この様な事情もあり、今は御者の壮年男性の隣に陣取る
鉄で補強された車輪の音が、少々耳障りな荷馬車。それと併走するのは、白く大きな
アラームの手により施された袋に収まるのは、昏睡したままのメイケイとウンケイだった。
「この辺りは、シザーレ
「
後方の荷車に乗るアラームの説明に、同じ場所にいる
「ほら。これでも
アラームは親切心か面倒だからなのか、決して安物に見えない深紅の片側掛け外套を
「ないよりはマシかもな」
アラームが、左肩に掛けている外套を貸した事により、
「あれ、お前さん怪我ぁ、してないか」
問い掛けるうちに、
「うん、大丈夫。この布は
相変わらず、凄まじく端整な口元に不敵な弧を描く。意味ありげな含みを込めた
「へ~ぇ」
大して興味も引かれない、
微かな潮の匂いと、街へと続く石畳。
夕暮れの向こう側の空に浮かぶ満月に気付き、
◇◆◇
霧のように、
大きな宿場街もあり、街の
スーヤ大陸の最西端ラナ地方にある、西側最大の港湾都市サン・バステアン。正面の大通りを進んだ先には、広大な広場に突き当たる。
その中央に、黒い
彼らは、東から西へ
スーヤ大陸の食文化向上に、多大なる貢献を今に伝える、と。
さらには旅路の果て、サン・バステアンで食文化の集大成が一つ生まれた。
それが、ラメン。
小麦粉と
紺碧の
毎月のように、催されるの各種祭典。食の最終地点とあって様々な料理が花開き、年中を通して人波が絶える事はない。
「女は必要ない。六名分の寝床を頼む」
この辺りの大型店舗は酒場と宿泊所が一緒になっているのが特徴だ。酒場の給仕役は男女種族を問わず、宿泊所で夜の相手をするのが通例となっている。
酒場では軽い食事なら出るが、ヴァルと呼ばれる小さな店舗が軒を連ねる飲食街へ向かうものだ。
それは、複数品目の一口料理を立ち飲みする場所。一口なので量が少なく値段も安いので、食べ比べも可能。会計は、食べた皿の数と大きさ。重ねたグラスと酒種。
それぞれの売り出し料理を摘まみながら、酒を一杯空けたら次の店に行く。それが、サン・バステアンの街を楽しむ流儀だった。
会話の中で、お
「え~? 残念。お兄さん、布地で顔が見えないけどイイ男っぽいから、隅々まで悦ばせたかったのに~。はい、
惜しみながら、コルセットから溢れそうな胸を強調する宿帳係を前に、アラームは前金を支払い、冷静に記帳する。
「悪いな。連れが長旅で疲れてしまっているんだ」
「あらま、大変じゃないか! 医者か薬師でも呼んでやろうかねぇ?」
「
「お兄さん、街の名物を分かってるじゃない~。部屋に、薬草湯と肉詰め蒸しパン、オマケしとくよ。お連れさん、お大事にね」
店内も景気良く灯される固形や液体照明。人と座席がひしめき、誰かが通り過ぎるたび接触する距離感。
弾む会話に、食器や杯が重なる音。笑い声や嬌声が織り混ざり、生き物が発する空間に圧倒された
人波に触れる事なく、器用にアラームは彼らが待つ席へと辿り着く。そこには、見た目そのままの
「どいつもこいつも、モイモイモイ
「
道中での
「そんな事より、
周囲の煩雑な音を意識から切り離した様子で、
「あの姿で正面からの入店は無理だから、部屋に入ったら適当に招き入れる。それまでは散歩だよ」
「そりゃそうかもしれないが、あんな可愛い子ちゃんだ。
「断っておくが、
「知ってるよ、そんな事くらい」
不満と
「
気を取り直した様子で、蜂蜜入りの白湯で一息ついた。
「不安だからこそ、騒いで紛らわせているんだろう」
アラームは、
「しかも、今夜は満月だ」
アラームは、通り側の壁を取り払われた店舗の客席から見える屋外を言葉で差した。
なだらかに、護岸に向かう街並み。霧に煙るような
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