沈黙の文字 番外編
璜準の憂鬱。
―― 警告 ――
今回の〝沈黙の文字 番外編〟は、本編に関わりはありません。フローリオに到着する前、一行が夜を明かすために、休憩小屋で一泊した就寝時。
加え。当エピソードは、性描写が入っています。ご不快な方も、本編に移動する事が可能です。
飛ばしますか?
○はい⇒https://kakuyomu.jp/works/1177354054884893885/episodes/1177354054886153290
●いいえ⇒ありがとうございます。続きを、ご覧下さい。
もしも、今すぐに願いを一つ叶えてくれると言うのなら、寝る前の俺自身を殴りたい。人様の忠告を無視するんじゃねぇ! と、全力で。
『
『余計なお世話だ。寒いんだよ俺は』
これも、
スーヤ大陸の最西端サン・バステアンから、同じくほぼ中央部のフローリオに到着するまで、一カ月も要した。
俺の予定だと今頃は、
んな事を、ぼやいても仕方ない。あの時は、疲労も手伝い間もなく眠りに就いた。
「舐めても構わぬだろう?」
今、絶賛、変な頃合に目が覚めてしまった。ただし、
狭い空間に満たされ、かなり粘度がある液体。そこに、芯のある何かが侵入し、気泡を絡めながら小さく跳ねたような音がする。
「こら、
眠っている俺達に配慮したんだろう。アラームの声が、
「行儀が悪いな。待てないのか」
「こんなにも、美味しそうなのに?」
上等な
こりゃぁ、
「絡んで来るなよ。上手く動かせない」
「そのような事はない。アラームの技量は正確で具合も申し分ない。いつも我を満たしてくれる」
ウッソだろ、お前! 何だ何だ何なんだよ。盛ってるのか、おっ始めやがったのか? コイツら、その筋の仲だったのか?
いやいやいや。その前に、俺はどうすりゃ良いんだよ。アラームの忠告を無視したばかりに、こんな目に遭っちまったよ、おい。
硬めの布地が、一定の拍子を保って
この休憩小屋は、通り掛かりの旅人が立ち寄る頻度が高いみたいだ。暖炉もあり、簡単な調理なら可能な調理器具もある。乾いた薪が多く、照明用のランプに油が残り、予備もある。
前の利用者が、後の利用者のために、残せる物を残し、後始末を済ませ、再び旅立つ。
見えない相手への気遣いと、厳しい旅路への励ましの思いが、この休憩小屋を存続させているんだ。
それなのに。
「そんなに乱暴に入れるな。少しずつと教えただろう」
「さして変わるまい」
「繊細なんだ。手順通りにしないと、上手く反応しないぞ。膨張しなくなるだろう」
「ならば、次はアラームのモノを立たせる」
それなのに、お前さん達と来たら。俺は情けない。
「ん?」
「うん」
何なんだよ、そのやり取りは! 何の確認なんだよ! 吐息混じりは反則だろ!
「
「少しずつ?」
「そうだよ、少しずつ入れて」
硬めの布地が、ゆっくりとザラ付く。それが、温められた空間に
冬が近い外気が、壁の隙間から勢いよく入る高い音。その風に吹かれ、細かい
俺の聴覚を支配するのは、二人の
何だか、甘い匂いも漂ってやがる。屈辱的だが、下半身が熱を帯びて活性化しそうになっているじゃないか。
アイツら、声が良過ぎるんだよ。俺達への気遣いが
「アラーム、脱がせてやろうか。動きにくいし、汚れてしまう」
「お断りだ。動けるし、汚す訳がない」
何、その自信。そんなに自信満々な技を持ってるって事? って、待て待て待て。忘れていた。これは、ちょっとした気配だぞ。
メイケイ、ウンケイ。それに、
だが、しかし。確認出来ねぇよ! 俺達の位置取りはこうだったはず。
俺は、壁に埋め込まれている暖炉の正面に向かって寝ている。お盛んな二人は、火の番を買って出た後、暖炉の右端にいたはず。
声の響きからして、俺を視界に入れているみたいだ。
入口に、半覚醒状態でメイケイが陣取っている。その入口と、俺を繋ぐ直線上の真ん中でウンケイが入口を向いて寝転がっていると思う。
あれ?
は? どこだ?
「音を立て過ぎたな。起こしたんじゃないかな」
「善いではないか。入れるかどうか尋ねられる」
冗談じゃないぜ。俺も盛り場に混ざれってか? いくら、アラームと
「フローリオに着いたら、補充しておかないとな。昔からの付き合いとは言え、高級品だもんな。これ」
「だが、
話しが唐突に変わったな。どう言う事だ?
「ショコラーデに、キルシュヴァッサーを入れては、風味や香りに角が立たないかな」
はい? ショコラーデに、キルシュヴァッサーだと? キルシュヴァッサーって、桜桃を種ごと砕いて蒸留する酒の事だよな。
そんなモンを
「あぁ、悪いな
しまった。目を開けちまった。
最悪な頃合って、この事じゃねぇの? 野郎同士がやってる最中の場面。しかも、その相手と目が合うって。これを最悪と言わずして。
あれ? 絡んでない。それに、コイツらが持ってるモノって。
「な、何してんだよ」
「甘い物を出せと、不機嫌になっていただろう? 知り合いの所から材料を失敬して、ダンターシュ風チーズケーキと、タルト・シャンティ・ショコラを作っていた」
「へ? りょ、料理」
「うん」
短くあっさり、アラームは応えやがる。
「あ、あの。〝そんな所に指を入れるな。あぁ、ほら。
「これの事?」
アラームが上半身を伸ばし、背が低い棚から何かを手に取り、俺に見せて来た。
「小瓶に蜂蜜を小分けしたが、
「無礼な。我は不衛生ではない」
「要するに、お前さん達は、事に及んでいた訳ではなく、
「当たり前だろう。そもそも、事に及んでいたとは、聞き捨てならないな。どんな了見だ。料理に対する冒涜だぞ」
薄暗いが暖炉の明かりでも明確に映える、気味が悪い程に整うアラームの顔が俺の視界に入ったまま。しかも分かる。分かるぞ、アラーム。お前さんは、こう思っている。
何を言っているんだ、お前は。と。
しかし、ここは声を大にして言わせて
「
「気を遣う程に誤解してしまったではありませんか!」
「嗅覚すら惑わされる雰囲気でしたからね!」
おぉ、我が愛弟子達よ。思いは同じか。どうだ、アラームと
すると二人は、今度は全く同時に目を合わせ、再び俺を見た。仲良しか。仲良しさんか!
「では、不要なのか?」
「作って下さい、お願いします。美味しく頂戴しますから」
アラームの問いに、逆らえる訳がなかった。背後から、メイケイとウンケイが落胆する気配を感じる。慣れたものだ、
あぁ、そうとも。こんな所で
「あれれ。何の騒ぎ?」
見当たらないと思っていたら、そこか
「もう済んだ。子ザルは寝ろ。俺も寝る」
「ま~た、ボクの事を子ザルって言う~」
語尾は、寝息混じりだったな。あの寝付きの良さは羨ましい。
「皆も、気が済んだら寝てしまえ。明日はフローリオに到着する。むしろ、させる」
何なんだ、させるって。駄目だ。急に眠気が来た。聞きたい事は他にもある。その材料や器具をどこから出したんだとか、色々。
「おやすみ、善い夢を」
アラームの声が届いた頃には、現実の岸を掴んでいた片手を離してしまった。睡眠へと沈む感覚が、それなりに
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