三十の節 フローリオの、飛べない歌姫。 その一
フローリオが歴史に現れたのは、レーフ
同
ヒト族による強烈な選民意識。悪化する治安に耐えられなくなった商人達が、ガーラット河に沿って南下し、
レーフ暦
フィーツ・ワイテ帝国による、幾多の干渉を掻い潜って来た。交易権の死守、商業条約、人種を越えた自治の意識が、スーヤ大陸に美食と芸術の都・フローリオを開花させた。
ここは、
飲食店側は二階層造り。総大理石で構成され、贅を尽くした扇形天井。客層も豊かで、絶える事のない客足を保つ品々を照らすのは、
日暮れも間近な時間帯。夕陽が鮮やかな色硝子で彩られる、二階席の薔薇窓を通し幻想的な空間を演出する。この場において、誰が不満を漏らすのか。
しかし、どこの世界にも異分子は存在する。その期待を裏切らない客がいた。
「なぁ~、
「
事情を説明するメイケイに
後続の客に知己を見付けたアラームと
大衆酒場での風景で許される所業であって、高級店にとって不作法この上ない。当然、周辺の客の視線も冷たい。
当のアラーム達は周辺の空気など構う事もせず、
物珍しい種族が囲う一席と楽しげな雰囲気に、和やかな表情で見守る客もいる。当然、気を悪くした客もいた。そんな彼らは、食事の途中で帰ってしまう姿も出始める。
「アラーム様達、楽しそう~。ボク達も行かない?」
「止めとけ。アレは、さすがに
自身を棚上げした
酒も入り気を
アラームに続き
扇形天井や空間構造も手伝い、音響効果は抜群だった。
「お~お~、大口開けて唄なんか歌っちゃって。酔っ払いは恥ずかしいねぇ」
「酔ってなんかないってば。ボク達は、
雲の上の話に、メイケイとウンケイは目も耳も釘付けだった。
「
包み隠しもせず、
再び
「母が、大変失礼な事を。どうぞ、御容赦下さいませ」
「いいや。どう見ても、アイツらが悪い。気にしないで欲しい。それと、先程は出迎え痛み入る。ドラーセナ支配人」
「恐悦至極で御座います」
折り目も正しい給仕姿のヒト族の紳士が、最大級の礼節を示す。
夕食の開店時。
常連客の貴族・紳士淑女を差し置き、歓待を受けた
「メイケイとウンケイと再会出来たのは、もう懐かしさと感謝しかありません。非礼とは存じながら、こうしてお声を掛けさせて
「いや、何だ。世話になりっぱなしなのは、俺の方だ」
「下衆な下っ端のせいで、メイケイとウンケイには取り返しが付かない事をしてしまった」
「何を仰います。
当時を思い出したのか、ドラーセナの茶色の瞳が悲しげに揺れた。
「母さん、お手柔らかに頼みますよ」
「駄目よ、ジェロア。恩人だろうと極上の美青年でも、言うべき事は言わないとね」
老いはしても、黒衣の淑女が穏やかな笑みを浮かべている。青年の黒い背を叩きながら、容赦のない言葉で釘を刺す声は、酒焼けで低いが老練の魅惑が含まれていた。
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