三十一の節 フローリオの、飛べない歌姫。 その二
フローリオには、
その総支配人であり、
普段は存在感があるアラームだが、マリサの隣では添え物の位置に甘んじている気配を漂わせている。そのようなアラームはあるものの、役割だけは忘れてはいなかった。
「
「あぁ? 俺は錬金術の究極の姿。
レーフ暦が開かれる前時代の頃。化学・科学・
面倒事など回避したい
シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、チョコレートケーキに、桜桃の水煮と生クリームが層を成す、シザーレの名物菓子になる。
「駄目だ。
「権限なんて言われてもな。俺は失業中だ。大体、
「その廃院が、二カ月前から面倒な事になっている。移動しながら説明するから早くしろ。
「留守番か~。アラーム様が仰るんだし、仕方ないか。行ってらっしゃいませ!」
「はい」
「承知しました」
「おい、主人を間違えちゃいませんか? なぁ、主人って俺じゃねぇの?」
「場所は
「今からって。ウッソだろ、お前。レフラ区まで直線距離で
「何と言う、お慈悲の程。おぉ、
「おい、俺は行くなんて言ってない。ないんだが!?」
つい先程、高級店ではやってはいけない行動を並べた
右側にアラーム。左側に
◇◆◇
夕暮れを背負う森林の中に、
災害や戦乱で、家や職を失った人々の居場所。諸事情で預けられる乳飲み子。親を亡くした子供達が、無償で
救済院は、
「丁度、二カ月前。子供が四人いなくなった」
陽の明度も陰り始め、気温も下がる屋外でアラームは語り出す。
「市警隊は、失踪した子供達を捜索したが、子供達や不審な対象を発見するには至らず」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
珍しく、
「ただ同時期に、誰もいないはずの救済院で、幽霊を見たと言う証言が増えた。盗賊や、野生生物の気配ではないと、市警隊は確認済みだ」
「今の今まで、フローリオの中心地にいたのに、店から出た先が、
「今の所、領主は動く気配はないらしい。不確定な要素でを騒ぎを大きくしては、街の評判にも関わる。その前に、前金に釣られた腕に自信がある旅人達が片付ける。と、言う寸法だ。荒れた地場を、
「俺の話しに答えろっての!」
一方的に説明するアラームを、怒声が
「空間移動だよ。時間も差し迫っている」
辺りは徐々に夕闇を増し、淡い霧が漂い出す。陽が沈めば、月が昇る。
「今日は、満月かよ」
「その通り。楽しい旅行で、気が
アラームの言葉を合図に、
夕暮れでも、霧状に踊り始める
◇◆◇
小さな集落には、朽ちた救済院が辛うじて原形を留めていた。周辺に
「一応、まやかしの結界で、空間を遮断していたんだがね。この時世、噂が立つ建物に足を踏み入れるとは、アンタ早死にするぞ」
荒れ果てた一室に、溶け込むように粗末な椅子に座る大柄な人影と、野太い男性の声。漂う生活臭には、何日も入浴していない濃く
「その声、シザーレ
「アンタ、まさか
既に目が慣れる相手は、正確な情報を元に会話を成立させた。戦場を駆ける機会が多かったドールンゲイズは、報告書の文字情報しか知り得ない者とは違う。互いに、現場に居合わせる事も多々あり、常識範囲内の交流は持っていた。
「それに、そこのお前」
「パシエ、なのか?」
「御機嫌よう。我が師ドールンゲイズ」
目深に
アラームは肘を折り、
最後に、相手の視線より下になる位置まで左脚を下げ、軸となる右膝を曲げた。
シザーレ
「はっ! や~っぱ、猫被ってやがったか。俺の目も衰えていなかったって訳だ。じゃあ、パシエの左側に立ってる白髪の白装束のお前は、
張りがなかったドールンゲイズの声に、
腹の内に乱暴に詰め込んだ、触れられたくない秘密を守るかのように。
「見逃してくれねぇか。弟子を自称するならよ」
今度は、
そこへ水を差す、野暮な事を実行する
「出来る訳がないでしょう? 機密を護るべき立場にある方が、検証中の秘薬を姪御に投与したのですから」
常識を超える内容に、ドールンゲイズは一筋の動揺すら立てる事はない。それはまるで、アラームの提起を肯定する姿だった。
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