十六の節 切願の果て。 その二
ここに来て、少々動きを入れたのは、ユタカの回りくどい会話に、飽き始めているのかもしれなかった。
ならばと、
「我ではなく、まずは会話が成立しそうな騎士・パシエに頼むのが筋ではないのか?」
明らかに、犬とは異なる大きく強靱な前脚の左側を一歩、ユタカに踏み出す。
「
黒い鼻先を下げ、濃い金色の
「その我に対し、ヒト族ごときの都合を押し付け、叶えさせようだと?」
さらに
「我に、二心は通用せぬわ。真の目的を申せ」
「い、いや。ハド坊ちゃんは守ってくれ! それは大前提、最優先! 真の目的だ! その前に何故、出来れば頼みたくない用事が分かったんだ」
天秤のように、ユタカの態度や言い様は傾く。
「我は、騎士・パシエの
「だ、だったら、叶えてくれるのか? そちらさんの、白い毛を少し切らせてくれるって願い」
そう。本来のユタカの目的は、
「断る」
「何だよそれ! 即答かよ! 知ってて即答か!」
ユタカは、装飾品の音を立てながら
「我は、騎士・パシエの
「へ~ぇ、パシエとは
「応える必要はない」
話しも反れた先で、ユタカは一つ深呼吸した。
「知り合いが、当代の
「当然だ」
「
ユタカは探るように、相手の濃い金色の
「と、言われているが、必ず何かが起きる訳じゃない。目に見えた変化が劇的に発生しない事もあれば、
知識として得た情報を、
「知り合いは心配だが、個人的には一つ気になる事がある」
天然の外気は、湿度が濃くなり始めた。その気配に、現役最前線に立つ野性味あるユタカの顔が屋外へ向かう。
「任期を終えた
「
ユタカは
「不思議な事に、同じ色を持つ人類が満月にケダモノへと転化しない。人類に関わる生命が、ケダモノと同じ色の目に染まり、狂ったように人類だけを捕捉し、喰らう」
軽く開いた
「本当に、ごく
「
対する
「話しを戻すと、
歴戦の経験則の
「そちらさんも、選ばれた相手も、ケダモノとなって俺達を喰らうのかな?」
次第にユタカは、思惑に酔いしれる感が強くなって来た。芝居掛かった視線の動きを見せ、
「ユタカ」
名を呼ばれ、持論に急停止が掛かった。
「生命は皆、不平等だ。真実は閉ざされ、情報は一部の者が共有する」
「ユタカが得る情報は、一般では届かぬ質量だろう。その上での推論は、周囲を惑わせ不安を
猫を思わせる、ユタカの瞳の形が揺らいだ。
知らず知らず、積み上げていた傲慢な見識の優越感を、恥じ入る姿にも見える。
「悪かった。そちらさんを相手にすると、欲深く聞き出したくなってしまった」
ユタカは、そのまま謝罪を示した。
「もしも、非を認め内に秘めるのであれば」
「我を、絶滅した
その言葉に、ユタカの口と瞳が最大限に開かれる。
「グランツ・ハーシェガルドは護ってやる。毛は諦めろ」
「け、毛の話しは、最初から気乗りしなかったからさ。別に、もう良いや。ついでみたいなモンだったし」
気が抜けた表情から、憑き物が
ユタカが、ヘイゼルの低木越しの空を眺めた。先が見通せない世界にあって、曇天はその象徴でもあるかのように映っていた事だろう。
それでも、ユタカの思いに
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