十五の節 切願の果て。 その一
北半球に位置するスーヤ大陸の季節は、盛夏を迎えていた。涼を求める催し物や、先人達の知恵が人々の生活を潤している。
しかし、例外もある。特に、
やや湿度を帯びる、降り出しそうな
春の開花時期もとうに過ぎ受粉も済み、青々と茂る葉を蓄えた、ヘイゼルの低木が整然と植樹されていた。区画の端には、柱と屋根だけの作業所と休憩所がある。
風通しの良い板場に、新雪色の毛皮が丸くなって
「俺の
白い毛皮に向けて言葉が注がれる。喉で低く発し、鼻腔を通ると高い音が二重奏を響かせる、特徴的な若い男性の声。
翌日には、スーヤ大陸の支配者を自称する、フィーツ・ワイテ帝国へ向かう、ユタカだった。
「モイ。騎士・パシエの使役獣」
モイ。シザーレ側の住民や、西部沿岸・ラナ地方で使用される万能の挨拶言葉だった。全く逆の
「あれ、俺とは会話をしてくれないのか?
黒い鼻を鳴らし、たっぷりと間を置いた。その後に、黒蜜の甘さを含む低音は正確な
「面倒事なら、お断りだ」
ちなみに、
「そう
同じく、
礼を差し出す相手に、新雪色の毛皮の
「その態度は崩せ。どうせ、長くは続くまい」
「ははっ。分かっちゃいました?」
見透かされたユタカは、早々に相手の言葉に甘え態度を瓦解させた。
「俺は、ユタカ。そちらの名前を、聞かせてくれないかな」
「
新雪色の毛皮は、
「良い声だな。もしかして、ヒト型に変身出来たりする?」
「
ユタカが放つ質問に対し、暗に肯定をする物言いで
「じゃあ、勝手に話しを進めさせて
ユタカはここでようやく、黒い
「驚かないんだ。俺の目を見ても」
「我の
「確かに」
だが、ユタカの目の前にいる
「用件は、綺麗な
「頼みがある」
ここは無言で、続けろ。と言わんばかりの様子だ。
「
「そうだな。会った事は記憶している」
「俺は、彼に恩がある。彼の御両親にも、返し切れない大恩がある」
壁がない作業所の影にあって、ユタカの瞳は決意を込めた燐光を発する。
「だが、俺達は帝国に買われた。もう、坊ちゃんに接する機会もなくなるだろう」
シザーレ
「俺も、立派な商品だって事を忘れていたよ」
ユタカの
「実際問題として、腑に落ちない点がある。ここ数カ月の内に、運営委員会の偉いさんは方々に出払う。主力を張る
「ほう」
「周辺諸侯や小国の資金、資材、傭兵の雇用状況、あらゆる流れに違和感がある。何かに怯え、何かに備えている」
「それで?」
「思い切り、ただの
「何が言いたい」
「その、何かが起きた時、坊ちゃんを。グランツ・ハーシェガルド様を守って欲しい」
「一つ、
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