九の節 八聖・璜準太師。 その二
「シザーレに行ってしまうのか。とにかく気を付けろ。シザーレは、常識が通じない連中が多い」
言いながら、
「そうそう。長生きするための重要な事を教えてやる。今、シザーレから偉いさんの女が来ているが、姿を見たか?」
「噂でしか伺っていませんが、とても美人で、その、
ハドが、言葉を選びながら答えた。
「それそれ、そいつ。ヨマイヤ・クラーディアって名だが、絶対に年齢を尋ねるなよ」
「次の日から、
「シザーレから脱走してんのに、俺の前に現れたり」
「え、その、ジジイって人は有名な方なんですか?」
本来、あってはならないが、セリスの言葉がやや砕ける。
「
何かを思い出そうとしているのか、
「十年くらい前だっけか? 最上位〝傲慢のメル・ウォルフ〟が失踪したって話し。ジジイってのはソレだ。さっき言った女も、八人会の一人〝妄執のクラーディア〟」
さらりと重要証言を発する
「さらに、その三年後は次期総帥が脱走した。当時、周りが騒いでた気がする」
所属は違うが、お互い有名人。情報は、嫌でも接する事になるようだ。
「アイツ、面白い色してるから、すぐ見付かると踏んでいたんだけどな」
「面白い色だなんて」
ハドの雰囲気に乗せられ、気が
「髪は紺色。目ん玉は赤だぜ。しかも、
染料技術の向上で、舞台俳優や商売関係者が人工頭髪で被る事例はあるが、生まれながら青系統の髪色のニンゲン属は存在しない。ある一族を除いて、ではあるが。
何よりも、
「しかし、群狼でも脱走すると、罪多き死の世界・
「い、いや、その前にシザーレに何が起きてるんだよ。そんな大物が次々に」
「大した事はないだろ。シザーレは正常運転だ。要請通り紫の蛮族も鎮圧してるし、被害報告のケダモノ事案にも参加している」
言いながら
「あいつらは
中庭中央に設えてある水盤が、静かに水面を湛えている。照れ隠しも含め、その風景に視線を逃がした。言葉通りの憧憬に染まるように、
「何もしてやれなかったが、同門の
「あ、
歓喜と恐縮に染まるハドの笑顔が、すぐにある事に気付き表情を引き締めた。
「あの、恐れ多いのですが、こちらのセリスにも頂戴出来ませんか。セリスは、竜騎士を志願しています。八聖様のご加護を
「長い長い。一気に
「そ、それ、文字通り品物か、女への褒め言葉じゃないですか」
「それ抜きでも、大したモンだ。
「ご忠告、胸に留めておきます」
セリスが感謝の言葉を口にする前の、見逃しそうな
「おっとと。話しが盛大に折れちまったな。待たせたな。
「お前さん達が、もっと早く生まれていてくれたらな」
ハドとセリスが、その意味を
「何でもねぇよ、ほら行くぞ」
それでも、
間もなく、
「
文言に添え、儀仗を飾る装飾金属が澄明な音を立てる。右手で作る、差し指と中指を揃えた豊穣を表す
やがて、
略式ではあったが、天下の
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