十の節 神獸族・絽候。 その一
スーヤ大陸の北側には、紫の大陸と呼ばれる広大な土地がある。大半は極海を含め永久凍土と過酷な寒冷地だが、南側に残された平地を載せる海岸線は、全てが切り立った崖となっている。
奪うため、生きるために一斉に南下する。彼らは紫の蛮族と称され、
スーヤ大陸が、紫の蛮族を塞き止めるのは天然の
エーメ・アシャントの北側、ヴェクスター・ライヒ地方は必然的に定期的な大激戦区。しかし、反対の南側のカンテ・シュタートは連峰が織り成す
エーメ・アシャントの恩恵は、
その風景を季節を問わず
加え、重責にありながら世界で一番危険な戦線に立つ、
「
春が過ぎ、初夏を迎えつつある中頃の季節。渓谷の木々には新緑が満ちる準備を控えている。
人々の生活圏・ノルデに目を向けると、手入れが行き届く背が低い糸杉の生垣向こう側に、小さいながらも整えられた草庵がある。少年の声は、そこで発せられた。
「っせ~な。子ザルの
「こ、子ザルって何だよ。失礼だな。ボクには
休憩庵の主でもある、若干厚着の
茶髪金眼。ここまでは、ヒト族の少年だった。両耳の代わりに、柊に似た
その風体に、少々心配そうな色を置いた異形の少年は、また一歩、
「あの、本当に体調が悪いのか? そんなに厚着だし」
「お前さん達は、およそ十年周期で違う〝
「嘘でしょ? アンタ、
少年は人類の監視役として、
「そりゃ、立て前だろ。俺が知りたいのは事実だよ」
読み込まれた写本を、丁寧に
「本当だってば。う~ん、もう一つ頑張って加えるなら、社会勉強? この役、競争率高いんだ。ボクは数百年も待ったんだぞ」
「そう言う事にしておくか」
「さっき交流会って言ったよな」
「お前さんは、相当な偉いさんだ。現場にいた可能性も高いし、その英知でお見通しだったんじゃねぇの?」
「え、何を」
「この間、帝国で開催された交換会で、シザーレ
当時、例の使役獣は特例で御前に目通りした上、フィーツ・ワイテ帝国の次期皇帝・サクラ内親王に、大変な粗相をしたと言う。
だが、事前に交わしていた契約書が履行され、交換候補生と使役獣、
憶測だけが現地を巡り、当の使役獣の姿形を明確に伝える者も限られていた。
「え、え~と。
「言えないなら、帰れ。お前さんが、ここに居座る価値があるとするなら、それは、正確なマフモフ情報を提示出来る事だ」
「大きな山犬っぽいんだけど、犬じゃないんだ。大きくて真っ白な身体で、物凄く綺麗な金色の
「騎士に興味はない。もっと、マフモフ情報を
「一緒にするな!」
「その白い犬、噂を聞き付けた内親王が呼び寄せたらしいんだ。会った
「騎士ごと?」
「いいや、その、白い犬だけ」
「しかし、内親王殿下の願いは叶わなかったんだろう?」
「うん。白い犬は物凄く抵抗して、奥番と近衛兵を半殺しにしたみたい。惨状を止められたのは、立ち会っていた
「連れて来た騎士や、シザーレ側はその場で死罪や賠償を問われなかったのが、例の契約書って訳か」
「うん。帝国側の偉い人が、契約内容を履行してその場を収めたよ。そもそも、交換候補生ってのは、内親王の
「ノークスのオッサンか? 帝国じゃぁ、あのオッサンくらいしかまともな政治家がいないからな」
「それ以前に、人肉を喰らうケダモノだろうが野の生物だろうが、異種族を越える
「それは時として、同族にある縁よりも強く結ばれる。
「本当に、その通りだよね」
同調され、意外な思いでもしたのか。
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