十八の節 絽候と、初めての戦場跡。
今から、一七〇〇年前。起伏が乏しく、荒野が広がっていた土地に、名をシザーレと冠した
激動と平安の時代を重ねながら、周辺の都市・小国の庇護に務めた。一度の侵略も、
歴史に培われた石造りの街並みは見る影もなく、壊れた水路から流れ出した上下水が混じり合いながら地表を這い、濁っていた。
石畳が
死骸目的の小さな生き物達以外、周囲に人の気配はない。生存者は、設置された避難所に集められている様子だった。
非日常の風景の中。ノルデで
「何、これ」
澱む屍臭。種の判別も付かない肉片。
横倒しの馬車には、
「うわ!」
予想外の感触に、
淡い金色の視線で追う先には、原形を留めない
「ろして、くれ」
殺してくれ。
報告を耳にした日数から
「ご、
「
「セ、
大きな白い犬が、低く黒蜜の甘さを含んだ響きを
「アラーム・ラーア様は、御一緒ではないのですか」
「あれなら、死体処理に駆り出され走り回っている」
「左様でしたか。それにしても」
「戦場跡は、初めてか?」
「はい。お恥ずかしい限りです」
「始まったのだな。ついに」
「はい」
「次は、
「え!?」
「何を動揺している」
「察してやれよ。気に留めた
突然、会話に割り込んだ緑色の制服姿。
淡い金色が視界に捉える姿に向かい、
「貴方が、アラーム・ラーア様でいらっしゃいますか」
「うん」
「御挨拶が遅れてしまい、大変失礼致しました。
「丁重な挨拶、傷み入る。アラームで構わないよ」
あっさり偽名を払い
「あの御老体には参ったな。まさか、ケダモノと一緒に〝
「ロレッタは既に壊滅。シザーレで実行したとあっては、残る
偉大なる先達に挟まれ、
「あの、それは何故でしょう。シザーレで発生した流れなら、地理的にも東に進みフィーツ・ワイテ帝国。後に、
「私が御老体なら、巨大な権威と権力を最後に突き崩す。楽しみは最後に取っておく感じかな。その方が、追い詰めた気分になるし。帝国や周辺諸侯は、金銭や人脈によって多くの手練を世界中から集めている。こんな騒ぎが起きる前にだよ」
「それって、こんな騒ぎになると、帝国は事前に知っていたと?」
「判りやすいよな。金銭に不自由しない権力者は」
真面目な仕事ぶりを覗わせる、緑色の制服は惨状を写し取っていた。目深に被る
「ただ、帝国に密告したのは御老体ではないな」
「まさか、
「うむ。いつぞやシザーレに向かう途中、我々とは別にケダモノを
鼻を鳴らし、誇らしく
「あの御老体にとって、この世界は遊戯盤だ。参加者が増えて御満悦だろう」
アラームと
「判っているのなら役目を果たせ。見付けたばかりの
「はい! あのそれで、お二方は、どのような活動を続けられるのですか」
「我は、アラームの好きにさせる。これぞ、
「このままの流れで、後始末するよ。どうせ
「え、ええ!? ボクがカンテ・シュタートのノルデから出る時は、そのような動きなど一つもありませんでしたよ!」
「索敵や情報収集に
「仕方ないさ。
頭上に伸びるのは、両耳代わりの
それでも
決意と現実に向き合っている
「
「はい」
「次、会える時まで
「あ、
アラームの気遣いに、
「おお~い! デカいの! どこ行ったんだ~!」
「ん? は~い! 今、そちらに向かいます!」
アラームから、パシエの演技に戻し返事をした。
「アラーム様。こちらの
「承知した。丁重に見送ると約束するよ。さあ、
「
刻を告げる鐘の音はない。ただ、広がる青い空と白い円環の下。一つの文明が、瀕死の状態で
そこにある哀悼の姿は、
小さな決意が、信念へと満ちるように。
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